泌尿器科専門医 ドクター尾上の医療ブログ:泌尿器科専門医 ドクター尾上に寄せられるさまざまな性感染症のトラブルについて専門家の立場からお答えします。

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2009年03月23日

女性の淋菌性尿道炎!マジ!?

先月、23歳のOLの女性が来院してきました。
本人曰く、
「今朝から、排尿の始めに ひりひりとする痛みがあり、膿のようなものが腟付近から出た」とのこと。
早速 患者さんの陰部を診察してみました。
見ると、尿道口が発赤し、黄色の膿が出ています。
膿を顕微鏡で観察したところ淋菌様の菌体が観察されました。
この症状と顕微鏡の検査所見から、彼女は淋菌性尿道炎であると診断しました。


患者さんにもっと詳しく話を聞いてみると、
患者さんには同棲している彼がいて、その彼氏も前日から排尿初期痛
尿道口からの排膿があると言うではありませんか。
彼は彼女の診察結果を聞いてから、病院に行こうと考えていたようです。
彼女のセックスパートナーは彼一人だけということなので、
淋菌は彼から感染し たと確信しました。


そこで、さっそく彼氏にも診療所に来てもらい、診察してみると、
まさに淋菌性尿道炎の典型的な症状を示していました。
そして、彼氏は性風俗店にも通っていたことがわかり、
おそらく、そこで感染したのではないかと推測しました。


男性の淋菌性尿道炎は、感染の2~7日後から排尿痛をおこし、
尿道口からクリーム状の膿が出るといった、本人が自覚しやすい症状が現れます。
しかし、女性が淋菌に感染した場合、多くの症例では尿道ではなく子宮頸管に感染します。
そのため顕著な自覚症状が現れず、本人は感染したことに気付きません。



今回の患者さん(彼女)では、尿道に男性の尿道炎と同じような症状を示した比較的珍しい症例です。
今回の症例では、女性に症状があったために早期に治療をすることができました。
しかし、本人の自覚症状が乏しい場合は治療することができず、他人へ感染させてしまうことがあります。感染は、男性性器と女性性器の接触、オーラルセックス、アナルセックスなどで成立します。
また体液が付いた手指がふれた眼の結膜へ感染することもありえます。


女性でも男性でも、淋菌感染した場合には早期に適切な治療を行わないと、
淋菌が子宮頸管や尿道に留まらず、他の器官に移行し、重篤な状態に陥ります。
女性の場合は骨盤内炎症性疾患(卵管炎、卵巣炎、骨盤腹膜炎など)、
男性は精巣上体炎、また、菌血症や関節炎にまで進行することもあり、非常に危険な感染症の一つです。


また、1回のセックスによる感染伝達率はHIVは1~0.1%ですが、
淋菌の感染伝達率は非常に高く、30%と言われています。
淋菌感染症は性感染症の中では最も 感染伝達率が高い病気の一つです。


淋菌感染症の治療は薬剤耐性菌の問題があり、抗生物質の選択が非常に重要となります。
何か心当たりがある場合には早期に専門医を受診することをお奨めいたします。


それではごきげんよう!

投稿者 aids : 14:33

2009年03月19日

肛門の淋菌感染症

3月に入り、前回ご紹介した男性同性愛者の患者さんが、
梅毒の経過観察のための血液検査に来院してきました。
その際に新たに申し出があったのは、
パートナーが肛門クラミジア感染症になったので、
自分も検査をして、必要があれば治療を希望すると言うことでした。

そこで少し大変でありましたが、
念のため咽頭・尿道・肛門の3箇所のクラミジアと淋菌の遺伝子検査を行いました。
そして、今回の検査の成績が出るまで、とりあえずクラミジアの治療を先に行いました。
ところが7日後、肛門からはクラミジアではなく、なんと淋菌が検出されたのです。
ということは、彼は肛門淋菌感染症ということになり、淋菌の治療(点滴、内服)を行いました。

肛門の淋菌感染症は臨床的には比較的珍しい部類に入ります。
しかし、本当はそうではありません。そこには知られざるカラクリがあるのです。

実は本来は淋菌にしろ、クラミジアにしろ検出頻度が高いのは
性器・肛門・咽頭・眼の順なのです。
ですから女性でも肛門の検査をすればクラミジア・淋菌はかなり見つかると考えられます。
しかし、実際は、医師が肛門の検査をほとんどしないので、淋病を発見できないでいます。
つまり、医師の無関心が、肛門の淋菌感染症の症例が少ないことの大きな原因となっているわけです。

肛門領域の性感染症は、まだ手付かず、未開発の秘境にも例えられるかもしれませんね

投稿者 aids : 11:57

2009年03月17日

男性同性愛者の性感染症

1月某日、未婚で44歳の男性が来院してきました。
来院の理由を聞いてみると、
『HIVの即日検査を希望します。あと梅毒が心配です』とのこと。
一見、紳士風で、礼儀正しい立ち居振る舞いの男性でした。


そこで詳しく話を聞いてみると、その男性は「同性愛者(ゲイ)」でありました。
早速、診察致しますと、陰茎には異常所見を認めないが、陰嚢皮膚には梅毒性皮 疹を認めました。
これは梅毒の第二期に見られる皮膚所見です。
本人希望のHIV 即日検査もすぐさま行いましたが、こちらは陰性で、私もほっとしました。


梅毒については念のため、梅毒血清反応検査も行いましたが、
1週間後に、やはりハッキリと陽性であることが判明しました。
梅毒第二期ですので、早速駆梅療法(梅毒の治療)を開始しました。
治療は本人の努力もあって約2ヶ月で終了し、 現在は経過を観察しているところです。


さて、いい機会ですので、
今回は男性同性愛者(ゲイ)の性感染症について少しお話しましょう。
肛門と性器そしてハンド・フィンガー・性玩具・薬(ヤク)等を使用するゲイのセックスには、
計り知れない特殊性があります。肛門は本来、性行為で用いる部位ではありません。
肛門を使うだけで免疫力が低下するといわれています。


男性同性愛者には特有な性感染症があり、
男性性器と女性性器の結合で生じる性感染症とは全く違う病気があります。
それは「A型肝炎」と「赤痢アメーバ症」です。
A型肝炎はA型肝炎ウイルス(HAV)が原因です。
赤痢アメーバ(腸管の寄 生する原虫)は大便を直接的あるいは間接的になめることで感染します。


しかし、なんといっても最も注意しなければならいのがHIV感染です。
他にはゲイの約10%が梅毒に感染しているとも言われています。この数字の高さは驚きですね。
また尖圭コンジローマですが、ゲイのコンジローマは肛門にできるのが特徴です。
肛門の尖圭コンジローマはやはりHIV感染者に多くみられます。
また梅毒の第二期に生じる扁平コンジローマも、尖圭コンジローマとの鑑別が必要となります。


このような事実からもわかりますように、
ゲイの方は積極的にAIDS、梅毒、A・B・C型肝炎の血液検査を受けるべきです。
既にA型肝炎・B型肝炎・C型肝炎はゲイの間で深刻な問題になっています。
しかし、A型肝炎・B型肝炎は予防ワク チンがありますので、対策をとることも不可能ではありません。
セックスをするゲイにはワクチンをお奨めいたします。
これからは、男性同性愛者(ゲイ)のための性感染症の専門医が必要な時代になるかもしれませんね。


それでは、ごきげんよう!

投稿者 aids : 15:45

2009年03月06日

(4)淋菌は咽頭のどこに住み着くの?

前回は咽頭からの淋菌検出方法や咽頭淋菌検出率の男女差についてご紹介しましたが、
今回はいよいよ治療法についてのお話をしましょう。


淋菌性咽頭炎の治療は、日本性感染症学会の2008年「診断・治療ガイドライン」によって行います。
淋菌では薬剤耐性菌が問題になっており、薬剤選択には注意が必要です。
淋菌性咽頭炎の治療は現在、注射薬が主流になっています。
セフトリアキソン静注1.0g単回投与が一般的です。
あるいはセフォジジム静注1.0gまたは2.0g×1~2回、を1~3日間投与します。
咽頭淋菌にはスペクチノマイシンは有効性が低いため推奨薬から除外されています。


つぎに治癒判定検査の必要性について勉強しましょう。
咽頭感染は治療に時間がかかる症例が増加傾向にありますから、
治療後、3~7日によくなっているかどうかを確認するための治癒判定検査を行う必要があります。
性器・咽頭同時感染例では、治療により性器の淋菌が消失しても、咽頭の淋菌は残存するという場合もあります。それが治療後の性器感染症の再発原因となりえますので、感染の機会がなく再発した場合には咽頭感染も疑う必要があります。


最後に淋菌は咽頭のどこに住み着くのかもご説明しておきましょう。
実は咽頭の粘膜を覆っている粘液層の存在が淋菌の咽頭感染に関与していると考えられています。
つまり、口腔内上皮の粘液層にはもともと常在性であるNeisseria属の細菌が存在し、
同じNeisseria属である淋菌の生存環境としても適している可能性が高いというわけです。


淋菌は粘液層に存在するため宿主細胞にほとんどダメージを与えず、
感染が成立しにくい状態(保菌あるいは定着)にあり、何の咽頭症状もあらわさないことが
これによって説明されます。
そして咽頭淋菌の治癒率が低い事は、淋菌が咽頭上皮組織ではなく、粘液層に存在するため、投与された薬剤濃度の上昇が少なく抗菌効果が得られないためと思われます。


しかし、咽頭淋菌感染についてはまだまだ分らないことがたくさんあります。
今後の研究による解明が楽しみです。
今回のシリーズは、少し難しい話もあったかもしれませんが、
淋菌についていろいろ学んでいただけたかと思います。


それではごきげんよう!

投稿者 aids : 15:21

(3)咽頭淋菌検出率は男女で違う!?

前回、淋菌性咽頭炎の感染経路や検査・診断方法について少しご紹介しましたが、
今回はその続きとして、まずは咽頭からの淋菌の検出方法をご説明しましょう。


遺伝子増幅法(SDA法)によって咽頭から淋菌を検出する場合の検体として、
スワブまたはうがい液を用います。
スワブは子宮頸管または尿道スワブ用のキットを用いて、
両側の扁桃陰窩または咽頭後壁をキットの綿棒で擦過して採取します。


一方、うがい液は尿検体用のキットを用いて行います。
うがい液法は0.9%生理食塩水(10~20mL)を口に含み、
顔を上に向けて10~20秒間「ガラガラうがい」をさせ、
滅菌チューブに吐き出させた液を検体とします。


うがい液はスワブよりも被検者負担が少なく、採取手技も簡便で、
咽頭全体の粘膜上皮と粘膜付着物を採取することができます。
従って、咽頭検査の検体としては、咽頭スワブより咽頭うがい液のほうが陽性率が高くでます。ですから症状がでないまま口腔咽頭に存在する淋菌の核酸増幅法による検査検体としては、うがい液の方が適しているといえるでしょう。


また、性器淋菌感染者の咽頭淋菌検出率についてご紹介しますと、
当院では、男性、女性を問わず性器淋菌感染者の30%の咽頭から、淋菌の検出がみられました。
また、男性においては性器の淋菌陽性率が咽頭より高かったのに対して、
女性においては咽頭の淋菌陽性率が性器より高くでました。


さらに、性器に淋菌が証明された女性患者の31.6%に、男性では26.9%に
淋菌の咽頭での検出がみられ、有意の差はありませんが、
女性のほうが男性より咽頭の淋菌検出率がやや高くなっています。


その理由は判然とはしませんが、オーラルセックスに際し男女の外性器の形態的相違と
性交様式の相違が考えられます。
フェラチオの場合は、男性性器の形態的特徴から尿道分泌物が女性咽頭に
直接的に到達しやすい状態にあります。
それに比べてクンニリングスの場合は、女性性器からの分泌物は男性咽頭に
直接的に到達しにくい状態にあります。
これが男女の淋菌の検出率の差の一因とも考えられています。


さて、次回はいよいよ治療についてご紹介します。

投稿者 aids : 15:16

(2)自覚がないから恐い、淋菌性咽頭炎!

前回、風俗店を利用したことで淋菌感染となってしまった男性の例をご紹介しましたが、
今回は淋菌性咽頭炎についてもう少し詳しくご紹介しましょう。


日本男性の性感染症で最も多い病気はクラミジア性尿道炎、次いで淋菌性尿道炎です。
その淋菌性尿道炎の発症要因には、オーラルセックスが大きく影響しています。
最近では性行為の際、オーラルセックス(フェラチオ・クンニリングス)を行うことが、
ごくあたりまえの行為となっており、日常化しています。
また日本では女性性風俗従事者の咽頭における淋菌の感染率が高く、
これが淋菌感染症の原因となっています。


淋菌性尿道炎は激しい尿道症状がでることが特徴で、
それに比べて淋菌性咽頭炎は咽頭の自覚症状・他覚的所見が認められないことが特徴です。
すなわち淋菌性尿道炎を認めれば、そのパートナーの口腔咽頭に無症候のままに
淋菌が存在している可能性が高く、見過ごせばそれが新たな感染源となってしまいます。


次に検査・診断について少しお勉強してみましょう。
淋菌の咽頭検査法には分離培養同定と遺伝子診断法があります。

【分離培養同定法】
淋菌は発育に炭酸ガスを必要とし、極めて死滅しやすい細菌です。
温度変化、乾燥などに弱く、一般細菌と同じ培養方法では検出できません。
淋菌の培養同定には、咽頭を拭った綿棒を直ちに淋菌選択培地である
変法Thayer-Martin 寒天培地に塗抹後、速やかに密閉し、炭酸ガス発生装置により
炭酸ガス充填下に室温で保存、その後35℃で48時間炭酸ガス培養を行えば
98%以上の感度で淋菌を検出できます。


【遺伝子診断法】
遺伝子増幅法は検出感度が高く、口腔咽頭の淋菌を検出するのに大変有用です。
ただしPCR法は口腔内に常在する他のNeisseria属との交差反応(間違った反応)があるため用いません。また遺伝子診断法には、分離培養法と異なり薬剤感受性検査ができないという欠点があります。
また遺伝子増幅法にはSDA法・TMA法・RT-PCR法・LAMP法がありますが保健が適用できるのはSDA法のみです。


次回は実際に咽頭から菌を検出する手段や菌の検出率についてご紹介します。

投稿者 aids : 15:07

(1)淋菌性咽頭炎! 「のどが淋病!」

前回、性風俗店(ピンクサロン)にてオーラルサービスを受け髄膜炎菌に感染した男性の例をご紹介しましたが、今回も、おなじく風俗店のオーラルサービスによる性感染症のひろがりの実例をご紹介いたします。


2月のある寒い日、37歳の男性会社員が私の診療所に来院して来ました。
話を聞くと、5日前、友人と酒を飲んだ勢いでピンクサロンに行きオーラルサービスを受け、
さらにその風俗嬢と濃厚なキスを交わしたとのこと。
そして、その3日後の朝、尿道口の先から黄色いクリーム様の膿が出ているのに気づいのだそうです。
「まずい!やられた!」と思ったそうですが、もう時すでに遅し。
尿道口の周辺をよく見ると、赤くなり少し腫れています。
さらに排尿時に、尿の出始めが痛いと訴える…。


これが典型的な淋菌性尿道炎の症状です。
まずは性器の診察を済ませ、詳しい尿・尿道分泌物検査を行いました。
次に咽頭を診察したところ、ノドは赤くもなく、腫れてもいませんでした。
自覚症状もありません。
しかし私は、念のため咽頭の詳しい検査も行ってみました。
その結果、尿検査・尿道分泌物の検査では淋菌培養検査が陽性、
遺伝子検査でも淋菌が陽性ですが、クラミジアは陰性でした。
また咽頭検査の方では、淋菌の培養検査が陽性、
さらに遺伝子検査(スワブ法・うがい液法)でも淋菌が陽性でしたが、
クラミジアは遺伝子検査(スワブ法・うがい液法)で陰性でした。


つまり、この男性は風俗嬢のオーラルサービスとキスの結果、
「淋菌の生殖器・咽頭の同時感染」ということになったわけです。
症状がないからといって喉の検査をしなければ、咽頭の淋菌感染を見逃すところでした。
私の経験から、念のため喉の検査もやった方が良いと判断したが、それが良い結果をもたらしました。
症状がないからこそ、検査で確認するべきなんですね。
おかげでこの男性は、しっかり淋病の治療ができることになりました。


しかし、『口は災いのもと』とはよく言ったものです。
やはり『君子危うきに近寄らず』という姿勢が大切ですね!
でも酒のせいで『君子豹変す』だったのでしょうか、この男性は・・・。


やや余談が長くなりました。
淋菌性咽頭炎については、次回に詳しくお話しすることに致しましょう。

投稿者 aids : 15:02

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