泌尿器科専門医 ドクター尾上の医療ブログ:泌尿器科専門医 ドクター尾上に寄せられるさまざまな性感染症のトラブルについて専門家の立場からお答えします。

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2012年05月20日

第22回 名古屋泌尿器科懇話会

5月12日に、名古屋の泌尿器科医の研究会で講演の機会をいただきました。
出席された先生は約50名と盛況でした。これを報告いたします。  


<<第
22名古屋泌尿器科懇話会>>


日時:平成24年5月12日(土)
場所:名古屋栄東急イン 2Fプルミエ

【特別講演】
座長:成田クリニッック 院長 成田晴紀先生
演題:『泌尿器科医のための性器ヘルペス』
演者:宮本町中央診療所 院長 尾上泰彦 先生

【講演要旨】
(1)STI(性感染症)の特徴

(2)性器ヘルペス

  • 性器ヘルペスの疫学
  • 性器ヘルペス初感染のメカニズム、再発のメカニズム、検査法、実際の臨床症例 
  • 特に女性の性器ヘルペスは深刻な疾患である。女性の方が罹患率が高い臨床症状が激しく、発熱、疼痛、膀胱炎症状、歩行障害、鼠径部リンパ節有痛性腫脹などを認める。
    排尿障害、便秘などの末梢神経麻痺を伴うこともある。
    ときに強い頭痛、項部硬直などの髄膜刺激症状を伴う頻繁に再発する場合は、心身にストレスを与える。
    Elsberg syndromeといって、馬尾症候群を呈する進行性炎症性多発神経根炎を生じ尿意を感じない神経因性膀胱となり、カテーテルの挿入が必要となるケースもある。
    HSVが上行性に仙骨神経根に直接進展し、限局性の髄膜脊髄炎が起き排尿障害などを生じる。
    若い女性の尿閉を診た場合は性器ヘルペスを考えなれればならない。
  • 大事なポイントとして性器ヘルペスの初感染は性感染症であるが、再発は本人にとっては性感染症ではない。
    しかし、HSVを排泄するためパートナーにとっては性感染症になりえる。
  • また治療に関しては性器ヘルペスは「神経のウイルス感染症」であるから外用薬ではなく内服薬が是非、必要であることを強調した。
  • また年間におよそ6回以上の再発を繰り返す場合は、再発抑制療法を導入し患者のQOLを高めるべきなどを述べた。

 

(3)鑑別診断:梅毒、帯状疱疹、ベーチェット病、固定薬疹、毛嚢炎などについて述べた。

投稿者 aids : 23:31

2012年05月15日

単純ヘルペスウイルス(HSV)迅速検査キットの開発(後編)

20120515b.jpg

 

前回は、私たちの「ヘルペス研究グループ」で、開発した、迅速検査キットについてのお話を致しました。今週もその続きを説明致しますね。

現在、性器ヘルペスの診断に際しては、問診と視診に頼るところが大きいと思われます。
と言うことは、医師としての臨床経験に頼ることとなり、どうしても誤診が避けられません。

また単純ヘルペスウイルス(HSV)の抗原検査は、ウイルス分離と、唯一保険適応である蛍光抗体法(FA)がありますが、特異性はあるものの複雑な操作を必要とし、感度も約50%程度と低いことが知られています。

最近は感度が鋭敏な核酸診断法としてreal time PCR法やLAMP法もありますが、コスト面や特殊な機器を必要とするため一般的には普及していません。

臨床現場で効率よく診断するためには、複雑な操作や機器を必要としないこと、判定時間が短いことが条件となります。近年、迅速抗原検査としてイムノクロマト法を測定原理とする簡便なキット化された試薬が数多く発売され、臨床最前線で活用されています。

一般感染症領域ではインフルエンザウイルス、アデノウイルスなどに対する迅速検査があり、インフルエンザに関しては、年間1500万件以上の検査が実施されています。

性感染症領域でもHIV抗原・抗体やクラミジア抗原検出キットが一般的に普及してきています。このことからイムノクロマト法による迅速診断法は、臨床の現場において標準的病原診断法と位置づけられています。

性器ヘルペスは一般外来でかなり多く見られる疾患ですが、中には重症化する症例もあり、迅速な診断による早期治療開始が望ましいと考えられます。

また、非典型的症例も多く、正確な診断をすることで誤診による無駄な投薬治療を防いだり、HSVについての適切なカウンセリングを施行し、疾患に対する理解や他人への感染予防指導に努めることは非常に重要であります。

この新しいHSV迅速検出キットは、イムノクロマト法を原理として開発され、検査に際し、特殊な機器を必要とせず病変部を擦過した綿棒から、容易な操作で約10分程度と短時間で目視判定ができます。

また、ウイルス分離法と同等の優れた検出感度を有していることより、今後臨床現場において十分使用可能であることが示唆されました。

尚、この検査キットは2011年度に厚生労働省において体外診断薬として認可されており、現在保険申請中であります。申請が通りますと、保険適応が可能になります。多くの性器ヘルペス患者の診断に寄与できれば幸いです。 

投稿者 aids : 22:18

単純ヘルペスウイルス(HSV)迅速検査キットの開発(前編)

今回は、少し専門的になりますが、私たちの「ヘルペス研究グループ」で開発いたしました検査キットのお話しをしたいと思います。

『単純ヘルペスウイルス(HSV)迅速検査キットの開発』についてご報告いたします。
(2012年5月報告)

単純ヘルペスウイルス1型、2型(HSV-1、HSV2)を原因とする性器ヘルペス、口唇ヘルペスなどのHSV感染症は、よく見られる疾患です。

しかし、鑑別を必要とする疾患も多く、我々臨床医は診断に際し苦慮することもしばしばあります。性器ヘルペスの診断を確定させるには、HSV抗原があることを証明することですが、現在、迅速な方法がないため、そのほとんどは、問診と臨床所見(視診)で診断されており、臨床現場では、HSV抗原の証明による確定診断はあまり行われていないのが実状です。

一般外来では、症状が重く所見が明らかな初感染、初発例よりも症状が軽く、局所所見ではあまりわからないHSV2型を中心とした再発例が多く、臨床所見だけでは診断は不十分で、実際は多くの見逃し症例があることも問題視されています。

また、再発例には、異常はあるものの、その約60%は自分がヘルペス患者と認識していないと考えられています。

このような症例には、病変部位にウイルスが存在していることを証明し、正確な診断をすることにより、患者にヘルペスに関する情報を提供でき、今後の再発時の対処や他人への感染予防なども指導できます。このことは非常に重要と考えられます。

さて最近、感染症の臨床現場においては、インフルエンザ感染症やHIV感染症に代表されるように迅速抗原検査として、イムノクロマト法を測定原理とした簡便なキット化された試薬が数多く開発され、一般外来に普及してきています。

そこで、今回私達はイムノクロマト法を測定原理とした新しいHSV迅速検出キットを開発いたしました。
このキットの特徴は、特殊な機器を必要とせず、簡便な操作で、約10分程度でHSV抗原の有無を目視できることです。

このキットの基礎的また予備的臨床性能評価は、すでに専門学会にて発表し、また専門学会誌にも報告しています。

次回は、この検出キットのことをもう少し詳しくお話いたします。

 

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投稿者 aids : 22:09

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