泌尿器科専門医 ドクター尾上の医療ブログ:泌尿器科専門医 ドクター尾上に寄せられるさまざまな性感染症のトラブルについて専門家の立場からお答えします。

Home > 【ヘルペス】 > 単純ヘルペスウイルス(HSV)迅速検査キットの開発(後編)

単純ヘルペスウイルス(HSV)迅速検査キットの開発(後編)

20120515b.jpg

 

前回は、私たちの「ヘルペス研究グループ」で、開発した、迅速検査キットについてのお話を致しました。今週もその続きを説明致しますね。

現在、性器ヘルペスの診断に際しては、問診と視診に頼るところが大きいと思われます。
と言うことは、医師としての臨床経験に頼ることとなり、どうしても誤診が避けられません。

また単純ヘルペスウイルス(HSV)の抗原検査は、ウイルス分離と、唯一保険適応である蛍光抗体法(FA)がありますが、特異性はあるものの複雑な操作を必要とし、感度も約50%程度と低いことが知られています。

最近は感度が鋭敏な核酸診断法としてreal time PCR法やLAMP法もありますが、コスト面や特殊な機器を必要とするため一般的には普及していません。

臨床現場で効率よく診断するためには、複雑な操作や機器を必要としないこと、判定時間が短いことが条件となります。近年、迅速抗原検査としてイムノクロマト法を測定原理とする簡便なキット化された試薬が数多く発売され、臨床最前線で活用されています。

一般感染症領域ではインフルエンザウイルス、アデノウイルスなどに対する迅速検査があり、インフルエンザに関しては、年間1500万件以上の検査が実施されています。

性感染症領域でもHIV抗原・抗体やクラミジア抗原検出キットが一般的に普及してきています。このことからイムノクロマト法による迅速診断法は、臨床の現場において標準的病原診断法と位置づけられています。

性器ヘルペスは一般外来でかなり多く見られる疾患ですが、中には重症化する症例もあり、迅速な診断による早期治療開始が望ましいと考えられます。

また、非典型的症例も多く、正確な診断をすることで誤診による無駄な投薬治療を防いだり、HSVについての適切なカウンセリングを施行し、疾患に対する理解や他人への感染予防指導に努めることは非常に重要であります。

この新しいHSV迅速検出キットは、イムノクロマト法を原理として開発され、検査に際し、特殊な機器を必要とせず病変部を擦過した綿棒から、容易な操作で約10分程度と短時間で目視判定ができます。

また、ウイルス分離法と同等の優れた検出感度を有していることより、今後臨床現場において十分使用可能であることが示唆されました。

尚、この検査キットは2011年度に厚生労働省において体外診断薬として認可されており、現在保険申請中であります。申請が通りますと、保険適応が可能になります。多くの性器ヘルペス患者の診断に寄与できれば幸いです。 




2012年05月15日

Entries

Archives