泌尿器科専門医 ドクター尾上の医療ブログ:泌尿器科専門医 ドクター尾上に寄せられるさまざまな性感染症のトラブルについて専門家の立場からお答えします。

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2010年04月21日

淋病でないのに淋病にされた男(その4)

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前回までの3回で、2か所の病院から不適切な検査方法で「淋菌性咽頭炎」と診
断された男性を、私が「淋病ではない」と見破ったところまでお話しをしました。
詳しくは「バックナンバー」をご覧ください。
 
今日は淋病の検査方法について少しお話ししましょう。
やや難しい内容を含むかも知れませんが、知っておいて損はありませんので、どうぞお付き合いください。

現在、生殖器においてクラミジアと淋菌の検出検査は遺伝子増幅法であるPCR法が最も多く用いられております。しかし、口腔咽頭の淋菌検出検査にはPCR法は適しません。
これはどうしてでしょうか。
 
口腔内には常在菌(非病原性菌)であるナイセリア属が現在、わかっているだけで11種も存在しているそうです。
さらにやっかいなことに、病原性のある淋菌も実はこのナイセリア属なのです。
PCR法はナイセリア属と交差反応をしめすため、このナイセリア属の細菌を淋菌と間違えて検出してしまうということになるわけです。
 
前述の彼が何度も「陽性」と診断された理由はここにあります。
つまり、PCR法は生殖器の淋菌検出には優れた検査法ですが、口腔咽頭の淋菌検出には適しません。一方、SDA法とTMA法はナイセリア属と交差反応をしめさないため口腔内の淋菌検出検査に適しています。
 
現在、口腔内のクラミジア、淋菌の遺伝子増幅法検査について、
SDA法は2007年の6月から、TMA法は2009年の10月から保険適用になっています。
さらに付け加えてご説明しておくと、淋菌を特定するのに一番優れているのは淋菌培養です。
しかしこの検査法は特殊な専門培地(変法Thayer‐Martin寒天培地)と炭酸ガス発生装置が必要であり、かつ検体採取法、検体の保存、輸送などが面倒であるため現在では研究者レベルの検査法となりつつあり、あまり用いられていません。
 
ただしこの培養検査は淋菌の抗生物質に対する感受性検査、耐性検査、疫学的調査には大変重要であることは間違いありません。
今回の事例は、咽喉の専門家であるべき耳鼻咽喉科医でも、淋菌の検出検査の知識が十分でなかったため、患者さんに大きな迷惑をかけてしまった典型的な例と言えるでしょう。
 
この患者さんのように、淋病でもないのに淋病と診断され、おまけに必要のない治療までされることは他人ごとではなく、許されることではありません。
残念ですが、淋病の検査方法の適切な用い方については、まだまだ婦人科、泌尿器科、性病科のドクターに周知されていないばかりでなく、咽頭の専門家である耳鼻咽喉科医さえも周知されておりません。真にお寒い状況です。
現状では、これからも日本においてこのような事例が繰り返し起こることでしょう。
早急に、あらゆる情報媒体を通じて周知徹底しなければなりません。
 
私もこのような悲劇が起きないように、講演会、専門紙、一般紙、メディアなどを通して広く啓蒙活動をしていこうと考えています。

投稿者 aids : 16:17

淋病でないのに淋病にされた男(その3)

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前回までの2回で、2か所の病院から「淋菌性咽頭炎」と診断され、治療を続けたにもかかわらず淋菌が陰性とならなかった男性に、私が「淋病ではないですよ」と診断を下したところまでお話しをしました。
詳しくは「バックナンバー」をご覧ください。
 
今日はなぜ私が彼が淋病ではないとわかったかをお話ししましょう。
驚いている彼に、私はゆっくり説明をしました。
「私の診断には2つの理由があります。
先ず、2ヵ所の耳鼻咽喉科で検査したPCR法は、咽頭の淋菌検査には使用してはいけない検査だ、ということです。
なぜかというと、PCR法は咽頭に住み着いている常在菌(非病原性菌)に反応して、淋菌でないのに淋菌と間違えてしまうことがあるのです。
この事実は最近、判って、学会などでも発表されています。
たまたま貴方が行った耳鼻咽喉科の先生方は、この事実を知らなかったのですね。
残念なことです。

2つ目の理由は、ここの診療所で1週間前に行った検査です。
ここではSDA法でノドの拭い液法と、うがい液法の淋菌検出検査をしましたね。
その結果は陰性でしたよ。おめでとうございます。
 
ちなみにSDA法は現在、咽頭の淋菌検査に最も使用されている検査で、保険にも適用されています。はっきりしてよかったですね。安心してください」
彼の顔に、みるみる安堵の笑みが浮かびました。
「そうだったんですね・・・。先生!すっきりしました。よかった・・・!」
彼は「ありがとうございました!」と何度も頭を下げながら、診療所を後にしていきました。

診察した医師が不適切な検査法を用いたために、何週間も淋菌に悩まされた彼。
治療の場で検査方法を選ぶのは医師ですが、受診する患者さんが検査に対する知識を少しでも持っていることで、今回のような事件を避けることができる可能性があります。
いい機会ですので、次回は淋菌の検査について、もう少し詳しくお話ししておきましょう。

投稿者 aids : 16:10

淋病でないのに淋病にされた男(その2)

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前回、2か所の病院から「淋菌性咽頭炎」と診断され、医師の指示通りの治療を続けたにもかかわらず淋菌が陰性とならない男性のお話しをしました。
詳しくは「バックナンバー」をご覧ください。

今日は彼が私の診療所に来てからのことをお話ししましょう。
「先生!私の喉は一体どうなっているんでしょう!?」と私に問いかけた彼は、
すっかり絶望してしまっている様子でした。
私は彼の表情から、彼の心に大きな傷ができていることを察しました。
そこでまずは「よく、ここにいらっしゃいましたね。もう安心してください。」と
彼に迎えの言葉を投げかけました。
そしてまず、以下のようなことを尋ねたのです。
「今までかかった2ヶ所の病院でノドの検査を受けましたね。
その検査方法の名前はわかりますか?」
彼はちょっと首をかしげるとすぐに答えました。
「わかりません。検査方法の名前までは教えてもらっていないと思います」
「そうですか。では二つの病院に行って遺伝子増幅法検査の検査方法名を教えてもらってきてください」 とまずは検査方法の確認を指示し、次に「今日はとりあえず、私の診療所で行なっているSDA法でノドの拭い液法と、うがい液法の検査をします」といって遺伝子増幅法(SDA)による咽頭検査を行いました。
「この検査は一週間後に結果が出ます。それまでに、二つの病院に行って遺伝子
増幅法検査の検査方法名を教えてもらってきてください。おそらくPCR法、SDA法、TMA法のいずれかだと思いますが」と彼にアドバイスをし、この日の診療を終えました。

一週間後、約束通り彼が受診してきました。彼はちゃんと二つの病院に問い合わせをしていました。
「先生、二つの病院とも遺伝子増幅法検査の検査方法名は PCR法でした」
それを聞いた私は、ゆっくりうなずき、笑顔で彼に告げました。
「やはり、そうでしたか。それでは貴方は淋菌性咽頭炎ではありません。感染機会もないわけですから、淋病の心配ありません。よかったですね」
私の言葉に彼は驚いたようにしばらく絶句したあと、
「淋病じゃないって・・・!?先生、それは一体どういうことですか?」
と尋ねてきました。
なぜ彼は淋病ではないと私がわかったのか、皆さんもお知りになりたいところかと思いますが、説明が長くなりますので、続きは次回にお話ししましょう。

投稿者 aids : 15:53

淋病でないので淋病にされた男(その1)

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先月、24歳の真面目そうな男性が受診してきました。
さっそく来院理由を伺うと、「喉の淋病について相談したい」ということでした。


彼の話によると、約4カ月前にノドに違和感を感じ、感染のチャンスはなかったものの、一応クラミジアと淋病を調べてもらうために、都内某所の耳鼻咽喉科を受診したそうです。
そこで咽頭の検査を受け、その結果はクラミジアは陰性で、淋菌は陽性。

その結果を踏まえ、耳鼻咽喉科の医師からは
「貴方は淋菌性咽頭炎です。治療をしましょう」という診断が下ったそうです。
治療は抗生剤セフスパン(セフィキシム)を7日間内服することだったようです。

それでもノドの違和感は無くならないので、彼は内服7日後に再受診し、治癒判定(治っているかどうかをみる)を兼ねて咽頭検査を受けたそうです。
その結果は、なんと再び淋菌が陽性。

その際の医師からの説明は「淋菌性咽頭炎は生殖器(尿道)と違って治りにくいのです。
もう一週間、追加治療をしましょう。」という内容で、治療は同じ抗生剤セフスパンの7日間の内服だったそうです。
薬の服用をきちんと続け、ノドの違和感は少し良くなったので、その2週間後、彼は同じ耳鼻咽喉科を受診し、再び治癒判定検査を受けたそうです。
しかし、その結果は、なんとまたまた「淋菌が陽性」。

「一体どうなっているのだろうか?」とこの医師の診断を不審に思った彼は、今度は都内某大学病院の耳鼻咽喉科を訪ねたそうです。
大学病院で同じく咽頭の淋菌とクラミジアの検査を受けところ、何とまた、淋菌が陽性。
大学病院の医師は彼に「淋菌性咽頭炎です。
淋病の治療は現在、耐性菌の問題があり大変難しくなっています。
今まで飲んだ内服薬では治りません。淋病の治療は注射薬しかありません」と説明。
「なるほど、耐性菌の問題だったのか」と納得した彼は、そこでセフトリアキソン(ロセフィン)静脈注射1.0gの単回投与を受けました。

その医師からも、7日後に治癒判定検査を受けるように言われた彼は、1週間後、その大学病院に向かったそうです。「今度こそ大丈夫だろう!と楽しみにしていたんです」と彼は語っていましたが、結果は何とまた「淋菌が陽性」だったのです。

「どうして医師の指示どおりの治療を受けているのに治らないのか」「一体どうすればよいのだろう」「自分の病気はもう治らないのか?」「どの病院を信じればいのか?」彼は悩み、迷い迷った揚句、インターネットで自ら情報収集をし、私の診療所を見つけて相談に来たということでした。

「先生!私の喉は一体どうなっているんでしょう!?」と私に問いかけた彼は、すっかり絶望してしまっている様子でした。

彼の喉の病の実態は何なのか、なぜ大学病院でも完治させることができなかったのか?
それについては次回お話しすることにしましょう。

投稿者 aids : 15:27

2010年04月12日

処女膜ってどんな膜?

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先日、32歳の未婚女性から処女膜についての相談がありました。

処女膜というのは、女性でも知っているようで知らないようです。
男性は「処女膜」と聞いただけで、何かゾクゾク・・とすることでしょう。
 
さて処女膜って、どんな膜なんでしょうか?
女性からのご相談は以下のような内容でした。
 
「私はセックスの初体験で 処女膜がやぶれませんでした。たまに出血しない人もいると聞いてはいますが、
その後のセックスの時も出血しないままです。過去に激しいスポーツをしていたわけでもないのに、何故なんでしょうか?」
 
「セックス初体験=処女膜が破れる=出血」というイメージは、ドラマや小説などで、皆さんの中にも刷り込まれているかもしれません。そして、処女膜というものを女性自身でもおそらくご覧になったことがないため、なにか膣の入口を蓋のように完全に覆っているものをイメージされているのかもしれません。
 
実際の処女膜は膣口(入口部)の全周囲に粘膜のヒダ(襞)として輪状に認めます。
形は個人差があり様々ですが、普通は膣口(入口部)をせばめているだけであり、生まれた時から小さな穴が開いています。処女膜で膣を塞いでいるわけではありません。
 
ですから生理的なおりものや、いわゆる生理の出血(血液)はこの穴から出てきます。
生理用品(タンポン)もこの穴から挿入します。
ただ、まれに『処女膜閉鎖症』といって生まれつき処女膜で膣がふさがっていることがあります。
 
また、『処女膜強靭症』といって処女膜(粘膜)が厚かったり、弾力性がなかったり、膣口がせまいためペニスが膣内に挿入できない場合もあります。
『処女膜閉鎖症』、『処女膜強靭症』については簡単な手術を受ければセックスができるようになります。
 
また激しい運動(スポーツ)やタンポンなどの挿入によっても処女膜が裂けたり、破けることはありえますが、そうでないことの方が多いでしょう。
 
また性的な行為(ペニスをワギナに挿入)により、処女膜の一部が裂けて出血することもありますが、出血しないこともあります。出血する女性は約50%ぐらいでしょう。出血すると『処女膜が破れた』ということになります。
 
女性からすると『処女が証明された』ということにもなりますし、男性側からすると『この女性は処女だったのだ』ということにもなります。
 
一昔前には、『初夜』という言葉がありましたが、いまやこの言葉は死語になっていますね。
昔は、この「出血の事実」を悪用して、初夜のとき寝室のシーツに血液の赤いシミを付け、『私は処女である』と見せかけたという話を聞いたものです。
 
今の時代そんなことはあまり意味のないことになりました。
ですから処女膜が破けても、破けなくてもどっちでも、良いのです。
何の心配もいりません。
 
セックスの回数を重ねれば、段々、この処女膜の亀裂部位が多くなり、膜の面積も減ってきます。
もちろん、お産(分娩)をすれば、膜が損傷を受け亀裂部位が深くなるでしょう。
ですが多くの場合、処女膜の残根は閉経期まで認められ、高齢者になるにつれて徐々に無くなっていきますが、もちろん個人差があります。
 
相談者の場合、おそらく現在、処女膜はセックスしたことにより多少なりとも亀裂が入っており、ただ自分で確認できる出血がなかったのでしょう。何の問題もありません。
 
貴女の健康なセックスをお祈りいたします。

投稿者 aids : 10:34

イケない僕は「腟内射精障害」?

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先日19歳の男性から、射精に関するご相談を受けました。
彼の悩みはマスターベーションでは必ず射精までいくことができるが、女性とセックスした場合なかなか「イケナイ」ということでした。

彼が友人にこの件を相談したところ、「膣内射精障害ではないか?」と言われ、「膣内射精障害だったら、どう治したらよいのでしょうか?」と、私の診療所に相談をしてきたわけです。

実際、セックスのときには彼自身は「早くイカないと」という緊張や焦りがあり、ペニスが腟内挿入時に痛くなることがあるそうです。

私はまず、腟内射精障害について、相談者ご自身が当てはまる節があるかどうか、確認してみることをお勧めしました。

「腟内射精障害だったならば・・・」という仮定の下で心配をしてもあまり意味がなく、まずは、本当に腟内射精障害なのかを見極める事が大切でしょう。
そのためには専門医やセックスカンセラーに相談されることが一番です。

自慰行為の際、自身の手でペニスを強く握りしめながら上下にピストン運動をすることで、ペニスに強い刺激をかけて射精へと誘うやり方がありますが、この強い力を加えた自慰行為を続けると、ペニスが強い握力に慣れてしまい、腟内射精に及ばなくなってしまいます。
「刺激の強すぎるマスターベーション」が膣内でイケない原因のひとつです。

また、相談者の方はペニスの腟内挿入時に痛くなることがあるそうですが、これは腟内射精障害とは問題の意味合いが違うと考えました。

私は彼に、「まず、彼女と一緒にコンドームの正しい使い方を学び、完全に亀頭が剥けている状態でコンドームをつけてもらってみてはいかがでしょうか?」とアドバイスしました。

何故「彼女と一緒に」と申し上げたかといいますと、自分自身で装着する場合、暗がりでペニスの状態をよく確認できていなかったり、早くコンドームを装着しなくては、と焦る思いから正しく装着できていなかったり、陰毛を巻き込んでコンドームを装着してしまっているかもしれません。

陰毛を巻き込むとピストン運動の際に毛穴が引っ張られてチクチクしますよね。
彼の言う「挿入時の痛み」は案外、こんなことが原因かもしれないと考えたからです。

そして一番大切なのは、彼女につけてもらうことで、相手にも避妊の確認をしてもらい、「お互いに安全なセックスをしましょう!」という意識を持つことです。

ご相談者はまだ10代でセックスに対して知識や技術、気持ちの余裕などは持ち合わせていないことでしょう。

この機会に彼女とセックスの事・避妊の事を腹を割って話し合い、ベッドの上で実践学習をしてみるのも貴重な機会になるはずです。

暗がりでモゾモゾ、事を進めてはなりません。灯りをともしてしっかり、ひとつひとつ確認しながら進めることが大切です。

男女がお互いに、セックスに対しての知識・技術があってこそ、安全かつ楽しめるセックスライフが送れるのでしょう。

また、彼の「焦りと緊張」に対しては、「セックス時は、とにかく自分が気持ち良くなるというよりも、彼女を気持ちよくさせてあげるというような心構えに切りかえると、自然と緊張がとれ、自分も気持ち良くなることが期待できますよ」とアドバイスをいたしました。

これは、医師としてというより、男性の先輩としての助言だったかもしれません。(笑)

投稿者 aids : 10:24

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