泌尿器科専門医 ドクター尾上の医療ブログ:泌尿器科専門医 ドクター尾上に寄せられるさまざまな性感染症のトラブルについて専門家の立場からお答えします。

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2009年02月08日

クラミジア感染による夫婦の危機!(後編)

前編から、性感染症が夫婦の間に亀裂を引き起こす事例をご紹介しています。
過去に夫としか性交渉がない妻がクラミジアに感染。夫の浮気を疑うも、夫の検査
結果は陰性。前編は「いったいなぜ・・・?」という質問が相談者から出された
ところまででした。


【相談者】 29歳 女性、既婚 子供1人



【相談者】夫の検査結果は陰性で、本人も浮気をしていないと言っています。
妻が陽性でも、夫は陰性になる例もあるのですか?夫婦の間でどうして片方だけが陽性になるのでしょうか?

【尾上】先に申し上げたように、検査の信頼性が100%ではないということです。
また検査を受ける際の条件が悪いと、感染していても陰性となることがあります。
女性であれば、検査前に抗生物質を服用している場合、または生理中でも検査成績に影響がでることがあります。

男性であれば、クラミジアの尿検査は最後に排尿をしてから2~3時間たってからの尿を採取します。しかも排尿初期の尿を10~20ml採取します。これが医療機関できちんと守られなければ、検査をする意味がなくなります。残念なことですが、医師側の説明不足・知識不足によって検査の精度が下がることもありえます。もちろん男性でも検査前に抗生物質を服用している場合には検査する意味合いがなくなります。夫にどのように採尿したかを聞けば、検査の精度の推察が出来ますね。

【相談者】夫は「昔、クラミジアになったけど薬で治した」と言っていました。
浮気はしていないが、過去のクラミジアが突然再発して、私にうつったという可能性もあるのでしょうか?

【尾上】今回の貴女の感染には、いくつかの可能性が考えられます。第1番目の推理では、夫の過去のクラミジアに対する薬の服薬が不完全であったのかもしれません。だから後に再発し、貴女にうつった。ところが受診した医療機関の検査の精度が悪く、陽性の結果が出なかった。

第2番目の推理では、夫は浮気をして、たまたま運悪くクラミジア性尿道炎なってしまった。
そこで、貴女にうつった後、夫は内緒で医療機関に行き、自分だけ治療していた。

第3番目の推理では、クラミジア性尿道炎は症状が約50%の人にしかでないため、夫は気づかずに放置していた。貴女にうつしたあと、夫は、風邪や他の病気で偶然服用した抗生物質などの効果で、本人も知らないままにクラミジアが治療されてしまった。

第4番目の推理ではクラミジア感染は生殖器感染のみではなく、クラミジア性咽頭炎があるということです。咽頭感染ではノドの症状がまったくないため、検査もされず、治療もされません。
もちろん生殖器感染の時クラミジアの治療を受ければ、知らずして咽頭感染の治療もしたことになります。ですが咽頭感染の方が生殖器感染より治癒率が低いのです。咽頭感染の場合は長期間の治療が必要になります。ですから咽頭感染を確認していないと不完全な治療となります。生殖器
感染の治療後、しばらくして原因不明の感染(再発)が生じた場合は咽頭感染を考えなければなりません。

【相談者】私は夫に、私のクラミジア検査結果が陽性だったというのを、どう伝えればいいでしょうか?

【尾上】大変難しいですね!夫が貴女を大切に思っているのなら、なぜ妻をクラミジアに感染させてしまったかを正直に話してほしいところです。もし、夫が本当はクラミジアに感染しているのに、貴女にそのことを隠していたとしたら、貴女は「夫から大切に思われていない。」と感じ、悲しい気持ちになりますよね。

ですから、もし貴女が夫から真実を告白されたならば、どのような内容であっても勇気を持ってそれを受け止め、告白した夫を 責めることはしない方がよろしいでしょう。妻を思うからこそ、正直に告白をするのです。話し合いをすれば、夫は十分に反省することでしょう。

夫婦ですから、お互いの信頼関係がなくなれば、一緒には生活ができなくなる可能性もなきにしもあらずです。お子さんもいるのですから、お互いに冷静に将来をみつめ、『性の健康』について話し合いをいたしましょう。

私からの提案ですが、もう一度、専門医を訪ね、夫婦そろって生殖器と口腔咽頭の両方の検査(治癒判定検査)を受けてはいかがでしょうか!そして二人一緒に安心いたしましょう。
『性の健康』を確認し、愛のある健康なセックスを心がけてくださいね。

投稿者 aids : 22:57

クラミジア感染による夫婦の危機!(前編)

性感染症は他の疾病と違い、性交渉またはそれに類似した行為という大変特殊な状況で感染するのが特徴です。
それゆえ、性感染症が夫婦の間に亀裂を生じる原因になることがままあります。
先日も20代の妊娠中の女性からクラミジアに関する相談を受けました。
クラミジアになったという事実よりも、なぜクラミジアになったのか、ということに心を痛める彼女と私が、どんなやり取りをしたのか・・・。

今回は一問一答形式でご紹介してみましょう。


【相談者】 29歳 女性、既婚 子供1人


【相談者】先生、私、妊婦検診でクラミジアの検査をしたら、陽性と出て薬をもらいました。

【尾上】貴女はおそらく妊婦検診で、子宮頸管のクラミジア検査(遺伝子増幅法検査)を受け、その結果が陽性と出たためにクラミジアに効く治療薬を処方されたのですよね。
クラミジアの検査が血液検査(クラミジア抗体検査)ではないことを確認されましたか?
まずは、貴女が受けたクラミジアの検査方法がなんであったかを医師に確認してみてください。
もし血液検査(クラミジア抗体検査)であれば過去にクラミジアになったことを表しているに過ぎませんから、治療は必要ありませんよ。

【相談者】でも不思議なのは、1年前に妊娠した時のクラミジア検査結果は陰性だったんです。

【尾上】子宮頸管のクラミジア検査(遺伝子増幅法検査)は生理時、抗生物質服用時、あるいは服用終了時から7日間以内、検体採取方法などにより成績に影響がでます。
残念ながら検査の信頼性は100%ではありません。90%台と考えた方がよろしいでしょう。
ですから妊娠時にもしクラミジアに感染していても陰性になることもありえますよ。

【相談者】なるほど。でも、今回、陽性になったって事は、夫はこの1年の間に他の女性と性行為をしたと考えられませんか?

【尾上】普通に考えれば、貴女が言うとおり、今回、貴女のクラミジア検査(遺伝子増幅法検査)が陽性になったという事は、夫がクラミジア感染症の女性と性行為をしたということです。
そして、その後、夫と貴女のあいだに性行為があったということです

もう一つは先に申しましたように、検査の精度の問題も考えられます。1年前のクラミジア検査が陰性と出ましたが、実はその時、クラミジアに感染していたのですが、それが検査で見つけることができなかった、ということもありえます。

【相談者】でも90%の確率で、検査で発見できるのですよね。私は夫としか性行為をしてません。

【尾上】貴女が夫とだけしか性交渉がないということは、素晴らしいことです。
これからも当然そうあるべきです。でも貴女には結婚する前に元彼はいなかったのですか?
よけいなことを聞いたかもしれませんが、もしモトカレがいたとすれば、話が違ってくる可能性がゼロではなくなります。

【相談者】夫の前に付き合った人はいません。ただ、クラミジアは、性行為の他に、女性の場合は温泉などでもうつると聞いたのですが、その確率は何パーセントぐらいなのでしょうか?

【尾上】「温泉で何%ぐらいの確率でクラミジアが感染するか?」ということはセックスを一度もしたことがない人が考えるべきことです。リスクは私には判りませんが1%以下よりもっと低いと考えます。私の見解は、温泉ではクラミジア感染は生じません。

【相談者】それではやっぱり夫が他の人と性行為をしたとしか考えられませんね。

【尾上】普通に考えれば、貴女の言うとおりです。であれば夫を許せませんよね。
でも違うかもしれません。もし違っていれば大変なことです。夫の心を傷つけることになります。十分に慎重に考えてくださいね。

【相談者】本人は浮気をしていないと言っています。妻が陽性でも、夫は陰性になる例もあると聞きました。夫婦の間でどうして片方だけが陽性になるのでしょうか?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
この質問に私はどう答えたのか・・・?
続きは後編をお読み下さい。

投稿者 aids : 22:44

陰茎硬化性リンパ管炎って!性感染症なの?

今回は『陰茎硬化性リンパ管炎』について勉強しましょう。


えっ?はじめて聞いた病名ですか?
正式には非性病性陰茎硬化性リンパ管炎(non-vevereal sclerosing lymphangitis of the penis、Mondor病)というものです。


先日、私のクリニックに29歳の男性がやってきました。
「先生!ペニスにコリコリしたオデキができた。心配で・・・」
という彼に話を聞いてみると、2週間ほど前からペニスの冠状溝の下
にコリコリしたオデキが急にできた。
痛くも痒くもないが、飛び出ていて気持ちが悪いとのこと。
風俗には行ってないし、何年も彼女はいないが、マスターベーションは
週に2~3回位しているということでした。



早速、診察してみるとペニスの冠状溝の下のほぼ半周に渡って、
環状に索状の結節(しこり)がみられます。
触れると、患者さんが言うとおりコリコリしています。
コリコリしている索状物は幅は約3~5mmの管状をしており、
表面はきれい、赤くなったりもしていません。
また、押さえても痛くないといいます。
管状のしこりは周囲との癒着はなく、可動性でありました。
しかも冠状溝の中央で索状のシコリが陰茎根部に向かって
陰茎体部の中央部付近まで屈曲しながら走行しています。

さて、これは何という病気でしょうか?
これが今回のタイトルにもなっている、「陰茎硬化性リンパ管炎」です。
20~40歳の男性に多く、性感染症とは関係ありません。
多くは、陰茎冠状溝の包皮の内板を環状にとりまく皮下の索状硬結(しこり)です。


少し難しくなりますが、性交による機械的刺激のためリンパのうっ滞、凝固、
器質化などが生じ、陰茎リンパ管に閉塞性、増殖性の索状結節(しこり)が
発生したものと考えられています。
すなわち、過度あるいは長時間のセックスやマスターベーションが
原因になることがあると言われていますが、はっきりとした原因は判っていません。
大体2週~4週でコリコリしたリンパ管は再開通し、自然消失することが多いようです。
自然治癒することが多いので、放置してもかまいません。


リンパ管の切開ないし穿刺は一時的な効果はありますが、
また直ぐに腫脹してきますから、無意味な処置となります。
自然治癒しないようでしたら、専門医を訪ね、定期的(2~4週間毎)に
診察を受ける経過観察をお勧めいたします。
場合によっては、または再発時には手術(リンパ管切除など)が必要になるかもしれません。
診断は、専門医が診れば目視で容易です。


最近、インターネットで勉強し、性感染症ではないかと心配して来院する方がみられます。
ご心配のある方はひとりで悩まず、まずは専門医をたずねてください。


それではごきげんよう!

投稿者 aids : 22:32

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