泌尿器科専門医 ドクター尾上の医療ブログ:泌尿器科専門医 ドクター尾上に寄せられるさまざまな性感染症のトラブルについて専門家の立場からお答えします。

« 2008年09月 | メイン | 2008年11月 »

2008年10月24日

睾丸が赤く腫れて熱が・・・これって性感染症!?

先日、マニラに海外赴任している35歳の友人から、突然かかってきた国際電話。
内容は『左の睾丸が突然腫れて、痛い!袋の部分が赤くなって熱をもっている。体温も平熱より高いんだ。原因は何だろう!?  セックスはずーっとしていないし、心あたりはまったくないんだけど、助けてくれないか?』というSOSでした。


彼は東京で育ち、今回初めての海外赴任です。
今までの病歴などをいろいろ聞いてみたところ、子どもの頃、おたふく風邪に罹ったことがないことがわかりました。そこで、睾丸が腫れて発熱したのは性感染症ではなく、睾丸炎(精巣炎)であると判断できました。
多くの方は意外に思われるかもしれませんが、睾丸炎(精巣炎)は、実はおたふくかぜウイルスが原因で発症します。


この病気は、正式には「流行性耳下腺炎精巣炎」といいます。
ウイルスが気道から侵入して、粘膜下組織で増殖し、その後ウイルス血症をひき起こし、全身的に広がります。このおたふくかぜウイルスに子供が感染すると、2~3週間の潜伏期の後に発熱し、耳下腺が腫れて、いわゆ る「おたふく風邪」になります。子供にとっては大変な病気ではありません。
おたふく風邪は一度かかると、終生免疫ができるため、二度とかかることもありません。
しかしながら、子どもの頃、おたふく風邪にかからないまま大人になってしまい、成人がこのウイルスに感染すると、なんとなんと!男性では睾丸炎(精巣炎)になってしまうのです!


睾丸炎(精巣炎)は一般細菌が原因で起こることは極めてまれで、おたふく風邪ウイルス(ムンプス・ウイルス)、淋菌、梅毒のいずれかが原因と判断できます。
現在ではほとんどが、おたふくかぜウイルスで起こるといえるでしょう。
睾丸炎(精巣炎)は、耳下腺炎発症後5日前後に発症することが多く、その多くは片方の睾丸に発症します。
症状は急激に睾丸の腫れと痛みが出てきて、発熱もありま すが、発症してから1~2週間で軽快します。
しかし、睾丸炎になった約30%の方は、運が悪いとその睾丸が萎縮して精子を作れなくなり、男性不妊症になる危険性があります。


現代日本は超清潔国家です。
この無菌状態のような日本で育った若者が発展途上国に出かけると、いろいろな病原体と遭遇し、予期せぬ病気になることがあります。
今回の友人の例もその典型と言えます。
子供のうちにかかっておくべき『はしか』『みずぼうそう』『おたふくかぜ』『風疹』などの感染症にかからないで大人になった方はどうかご注意を!


おたふく風邪はムンプス・ワクチンで予防で きますので、転ばぬ先の杖として、覚えて置かれるとよいでしょう。

投稿者 aids : 12:24

2008年10月21日

尖圭コンジローマ治療は新時代に突入!

尖圭コンジローマはヒトパピローマウイルス(HPV)の感染により生じるイボです。


人間の身体にできるイボの原因は殆どHPVです。
HPVは現在100種類以上の遺伝子型に分類されています。
その中で尖圭コンジローマの原因となるHPVは主に6型と11型で、
良性(低リスク)グループのHPVとされています。


それに比して16型・18型のHPVは悪性(高リスク)グループとされ
女性では子宮頸癌、男性では陰茎癌の原因となります。陰茎癌は稀ですが、子宮頸癌は若年者に増加しており世界的社会問題となっております。


その中で最近、尖圭コンジローマの治療薬として、米国3M社で見出されたイミキモド(イミダゾンキノリン誘導体)製剤、一般名:イミキモド(imiquimod)、化学名:4‐amino‐1‐(2‐methylpropyl)-1H‐imidazo[4,5‐C]quinolineが開発されました。
米国では1997年2月にFDAの承認を得て、世界では1998年9月から75カ国以上の国で使用されています。残念ながら、先進国では日本が最後でした。
持田製薬が臨床治験を終え、国内初の尖圭コンジローマ外用療法剤ベセルナクリーム5%を販売いたしました。
2007年12月10日より使用開始され保険適応が承認されています。


【使用方法】
尖圭コンジローマに1日1回、週3回、就寝前に塗布します。
起床後に塗布した薬剤を石鹸を用い、水or温水で洗い流します。
塗布後6~10時間を目安に洗い流します。


【適応】
外性器と肛門周囲の尖圭コンジローマに対し、優れた臨床効果を発揮する外用剤です。
この薬は、インターフェロン等のサイトカイン産生促進によるウイルス増殖抑制作用及び細胞性免疫応答の賦活化によるウイルス感染細胞障害作用を示し、患者本来のウイルス感染防御機構を介して尖圭コンジローマを消失させると考えられております。


【副作用】
国内臨床試験で本剤を使用した64例中、53例(82.8%)に認められています。
塗布部位反応の皮膚障害
紅斑(54.7%)、
びらん(34.4%)
表皮剥離(32.8%)
浮腫(17.2%)
および疼痛(28.1%)


ここでベセルナクリームだけでなく尖圭コンジローマの治療方法のついて
勉強いたしましょう。


【尖圭コンジローマの治療方法】
外科療法と薬物療法があります。
1.外科療法
  a.外科的切除
b.電気焼灼 
c.凍結療法(液体窒素) 
d.レーザー蒸散法(CO2LASER)
2.薬物療法
a.20%ポドフィリンアルコール
  b.10%ポドフィリン安息香チンキ
  c.5‐フルオロウラシル(5‐FU)軟膏
  d.ブレオマイシン(BLM)軟膏
  e.imiquimod(ベセルナクリーム5%)
f.podofilox(Condylox,0.5%液)
  g.cidofovir(Vistide,1%cream)
  h.インターフェロン
  I.内服:ヨクイニン、シメチジン等


以上のように尖圭コンジローマの治療法は色々ありますがそれぞれ一長一短です。
病変部位、大きさ、数、性状、再発傾向、治療歴などをふまえて、治療法を選択あるいは併用して行うのがよろしいかと思います。
ただ免疫調節剤イミキモドクリームの登場により尖圭コンジローマの治療は新時代に入っております。

投稿者 aids : 17:09

2008年10月11日

神奈川性感染症学会報告その2

2008年3月8日(土)ワークピア横浜で第8回神奈川性感染症学会が開催されました。
その中でイブニングセミナーが印象に残りましたので報告いたします。
講演演題 『性器ヘルペスの病態と治療』
講師 安元慎一郎先生(久留米大学皮膚科准教授)



【講演要旨】
性器ヘルペスの最も大きな特徴として、個人によってはHSV-2型による再発病変が繰り返し生じることと臨床的な病変がないときにも粘膜部からウイルスが排泄される無症候性排泄が起こっていることがあげられる。
現在のところ、感染防御に有効なワクチンは開発されておらず、よって個人レベルでの性器ヘルペスに対する知識の普及および予防行動と再発抑制療法がその伝播を予防する手段と考えられる。
再発抑制療法では、開始前にHSV-2型による再発性性器ヘルペスであることを確認するとともに、抑制療法中のコンプライアンスの維持、抑制療法終了後の再発頻度のモニターなどに留意しながら実施することが重要と考えられる。

投稿者 aids : 10:21 | トラックバック

神奈川性感染症学会報告

2008年3月8日(土) ワークピア横浜で第8回神奈川性感染症学会が開催されました。
その中で、イブニングセミナーが印象に残りましたので報告いたします。
講演演題 『淋菌感染症のUpdate』
講師 田中正利先生(福岡大学泌尿器科教授)


【講演要旨】
淋菌感染症は、淋菌を病原体とするSTDの代表的疾患である。
主に男性は尿道、女性は子宮頸管炎を発症する。
最近、男性の淋菌性尿道炎においては風俗女性との口腔性交を介した感染者が増加している。
風俗女性の実に約3割が咽頭に淋菌を保菌しているためと考えられる。
淋菌の検出は、分泌物のグラム染色標本の鏡検法と分離培養法が基本であるが、近年核酸増幅法(PCR法、TMA法、SDA法)が開発され、信頼性の高い迅速診断法として臨床応用されている。


淋菌感染症に対する治療においては、近年わが国ではキノロン耐性淋菌をはじめとする各種薬剤耐性淋菌の急増により経口抗菌薬の有効率が低下し、本感染症に対する治療薬の選択肢が非常に少なくなっている。
日本性感染症学会が作成した2006年度性感染症診断・治療ガイドラインでは淋菌性尿道炎と子宮頸管に対しては注射薬のセフトリアキソン、セフォジジムまたはスペクチノマイシンの単回投与療法のみが推奨されている。

投稿者 aids : 10:15 | トラックバック

2008年10月03日

HIV検査について

エイズやHIV感染については、最近、マスコミ等で取り上げられる機会が少なくなったこともあり、一般の人々の関心は薄れがちですが、文明国でエイズが増えているのは日本だけだといわれています。
日本国内では、HIV感染者・エイズ感染者は年々確実に増えています。
感染してもエイズ発症までの数年間は特別な自覚症状がほとんどなく、感染に気づくことができません。
そこで、感染の心配のある場合には血液検査が必要です。


HIV検査には抗体検査とNAT(核酸増幅検査)検査があります。
抗体検査は方法が比較的容易で、スクリーニング検査として広く用いられています。
数十分で結果が出る迅速検査も抗体検査のひとつです。
ただし抗体スクリーニング検査では、HIVに感染していないのに、たまたまHIV抗原と反応する抗体を持っていて検査結果が陽性(偽陽性)となる人が、通常1000人に数人はいます。
従って、抗体検査陽性の場合には、その陽性結果が本当にHIV感染による陽性なのか偽陽性なのかを確認するHIV確認検査(WB法:ウエスタンブロット法)を行う必要があります。


抗体スクリーニング検査で陰性の場合、HIV感染の心配はほとんどなくなります。
ただし、感染後2ヶ月以内の場合は感染していても検査結果が陰性となるので、心配が残る場合は2ヶ月以上経ってからもう一度検査を受けましょう。
HIV抗体の即日30分検査(迅速抗体検査)は、感染の心配なことがあってから2ヶ月以上たってから受けてください。プライバシーは守られます。 受付時の氏名は匿名(仮名)でもかまいません。
検査は担当医と簡単な面接をし、少量の採血を受けるだけです。
検査結果は約30分後、担当医より聞くことができます。
迅速抗体検査法は通常の抗体スクリーニング検査法とほぼ同じ精度であり、検査法として特に問題はありません。安心して受けてください。
心配なことや不安なことについては担当医に相談してください。


一方、NAT(核酸増幅)検査は、血中のウイルスそのものを検出します。
技術的に高度な検査で、抗体検査に比べ費用と時間がかかるので、スクリーニング検査としては通常使われていません。 またNAT検査は結果が出るまでに7~10日間かかります。
厚生労働省はエイズ対策研究事業としてNAT検査(核酸増幅検査)を行っております。
この事業の協力医療機関では、迅速検査が陽性で確認検査が必要な場合や、感染初期の可能性がありNAT検査を希望する場合には、速やかに受けることができます。


それでは感染機会からどのくらい経てばNAT検査ができるのか?
皆さん、この、いつ検査ができるのかで悩んでいます。
NAT検査では、抗体検査に比べ感染初期のウインドウ期(感染しているのに検査では陰性となる期間)を11日程度短縮が可能です。
ただ抗体検査のウインドウ期を2ヶ月として、2ヶ月後の検査で陰性であれば感染の可能性を完全に否定できます。 NAT検査の場合は理論的にはこの2ヶ月も11日程度短縮できることになりますが 大差がないので、抗体検査の場合と同様に2ヶ月ということで良いかと思います。
ただし、最近の抗体検査はかなり改良され検出感度が高くなっているため、感染後1ヵ月後にはほとんどのケースで抗体が検出されます。
従って、感染機会後2ヶ月前であっても、感染が心配で検査希望があれば1回目の検査を先ず、感染機会後1ヶ月目で受け、陰性であればひとまず安心いたしましょう。
その後、感染を完全に否定するため、念のための検査を感染機会後2ヶ月以降に受けるという選択肢が多くの人にとっては最も現実的な方法だと思います。
したがって、通常のHIVスクリーニング検査は全て抗体検査で行い、NAT検査は感染初期症状等があり、感染初期が疑われる場合か、検査希望者から特別にNAT検査の希望があったとき、考慮するということが良いと思います。


感染の心配のある方は検査を受けて心に平和を勝ち取りましょう。

投稿者 aids : 18:13 | トラックバック

ガチフロキサシン販売中止!9月30日

『ガチフロキサシン販売中止!9月30日』

 
尿路感染症・呼吸器感染症などに対して使用されているニューキノロン系経口抗菌薬のガチフロキサシン(商品名:ガチフロ錠)が、2008年9月30日をもって自主的に販売中止となることが決まった。
糖尿病患者に投与できないことや血糖値異常の周知徹底の困難さ、米国市場からの撤退、同様の抗菌力を持つ類薬の登場などがその理由とされています。
しかしながら突然のNEWS報道で現場の臨床医の衝撃はかなり大きいものと思われる。
杏林製薬(製造販売元)の親会社であるキョーリンと、販売元の大日本住友製薬が2008年9月30日発表したもので、キョーリンによると、今後、同薬の回収は行わないが、返品には応じるという。

 
性感染症であるクラミジア感染症の治療薬として、クラミジア菌の消失率が100%であるということで臨床医から高い信頼性を得ていた。市場から無くなることは、同様の抗菌力を持つ類薬があるとはいえ、患者にとっても大きな損失である。
真に残念である。

投稿者 aids : 14:08 | トラックバック

2008年10月02日

性感染症はクラミジア時代!

19歳の男子学生Aさんは、同級生の彼女にクラミジア感染を打ち明けられ、一緒に当院へ来院してきた。検査結果はクラミジア陽性でした。
Aさんはこれまでに何人かの女性とセックスしたことはあるものの、いつもコンドームを使っていたので、STI(性感染症)の心配は全くしていなかったと言う。
「コンドームは、セックスの最初から最後までつければ予防効果はあるが、それでも100%安全ではない。
特定の健康なパートナーと健康なセックスを心がけるのが、一番の予防法です」


最近はAさんのように、二人でオープンに検査や治療を受けるカップルもめずらしくないが、自分だけが治療・完治して、再び同じパートナーから病気をもらうケースもある。
また、24歳の女性Bさんは2年前に結婚し、今回、妊婦検診でクラミジアがみつかった。
実は1年ほど前に、元彼から移されたクラミジアの治療を受けたばかり。
そのときは、どうしても夫に打ち明けることができなかったと言う。
このままでは、出産時に赤ちゃんに感染するリスクもあるので、今度は必ず、夫と一緒に治療を受けるつもりだと言う。
放置しておくとクラミジアによる“家庭内環境汚染”になる。
「お互いにうつしたり、うつされたりを繰り返す“ピンポン感染”も多いので、必ず二人で同時に、検査・治療を受けてほしいですね」


最近、クラミジアの感染者がますます増加する傾向にあります。
まさに『性感染症はクラミジア時代!』である。
クラミジア感染患者は、女性が男性の約2.3倍。性活動の盛んな10~20代に最も多い。
クラミジア感染は簡単な検査でわかるので、振り返って思い当たることがある人は、症状がなくても早めに検査を受けたほうがいいかも!

投稿者 aids : 10:00

Entries

Archives