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梅毒、尾上泰彦医師に聞く

時事メディカルにインタビュー取材されましたので報告いたします。

インタビュー  2017/5/31

梅毒、尾上泰彦医師に聞く(上)=患者急増、4000症例突破

梅毒患者が急増している。国立感染症研究所の報告によると、2016年第1~47週(1月4日~11月27日)に梅毒と報告された症例数は4077例で昨年同時期(2328例)の1.8倍。一時減少傾向にあったが10年以降増加傾向に転じた。男性では40~44歳、女性では20~24歳の報告例が最も多い。梅毒が流行している背景などについて、性感染症に詳しいプライベートケアクリニック東京(東京都新宿区)の名誉院長、尾上泰彦氏に聞いた。

◇過去の病気、一転再燃

―梅毒はいつから始まった病気か。

①   梅毒患者の症例数の推移

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尾上 梅毒は、梅毒トレポネーマという病原菌がセックスなどの性的な接触によってうつる感染症。1492年に「新大陸」を発見したコロンブスが、欧州に持ち帰ったため全世界に広まったという説があり、日本でも20年後の1512年に病気についての記録がある。国内では1940年代に報告数が20万例を超えた。死を招くこともある病気として知られたが、抗菌薬であるペニシリンが戦後広く普及。小流行はあったものの、2010年には621例で過去の病気となりつつあった。ところが同年以降は増加傾向が続き、昨年1年間で4518例(速報値)と1974年以来42年ぶりに4000例を超えた。

―梅毒の再燃には、どのような理由が考えられるのか。

尾上 感染経路の大半は性的接触。口腔(こうくう)内に感染していたらキスでもうつる。インターネットやSNSの普及で交遊関係が広がり、性行為を目的として不特定多数と出会うケースが大幅に増えたことが背景にあるとされる。しかし、それなら梅毒以外の性感染症も同じように増えているはず。けれども、そのような結果は報告されていない。プライベートなことだけに調査には限界があり、原因ははっきりと分かっていない。

梅毒、尾上泰彦医師に聞く(上)=患者急増、4000症例突破

◇無症状でも強い感染力

―感染したらすぐに分かるのか。

尾上 梅毒は症状によって第1期から第4期まで四つのステージに分類される。初期である第1期は接触してから3週間後、3割の人に陰部、口腔内、口唇部などに硬いしこりができる。

②   第1期顕症梅毒 硬性下疳

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人によっては股の付け根のリンパ節が腫れることもある。それまでは何の症状も表れない。痛みもかゆみもなく、自然に症状がなくなる。残りの7割の人は無症状なので気付かないことが多い。この時期は感染力が強く、他の人に感染する可能性が高い。知らないうちにパートナーに感染させているケースも多く、これが感染拡大につながっている。さらに妊娠中のパートナーに感染すると、胎盤を通して胎児に感染する。これは「先天梅毒」といって区別され、死産、早産、奇形など、胎児や新生児にさまざまな影響が及ぶ。

―それ以降はどういう経過をたどるのか。

尾上 さらに3カ月放置すると病原体が体中に回り、第2期の症状として体全体や手のひら、足の裏に赤い発疹が出る、あるいは肛門にいぼができる。ほとんどの人はこの段階で異常に気付き、皮膚科で梅毒の診断を受けることが多い。この時点であれば、数週間の抗菌薬の服用で完治する。ただ、かゆみも痛みもないのが特徴で、治療しなくても数日から数週間で発疹は消えるため、ここでも放置されることがある。

③   第2期顕症梅毒 手掌・足底(梅毒性乾癬)

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第3期の症状が表れるのは、その数年後。皮膚や筋肉、骨などにゴムのような腫瘍(ゴム腫)が発生することがある。皮膚が溶けだし、外見的にもすぐ分かる症状が表れるが、かゆみも痛みもない。また、心臓、血管、脳などの体全体の臓器にさまざまな影響を及ぼし、第4期になると、死の危険性もある重篤な状態となる。現在は、治療のための抗菌薬が普及し、比較的早期から治療を開始する例が多い。第3期、第4期の晩期の梅毒に進行する人はほとんど見られなくなった。(ソーシャライズ社提供)

梅毒、尾上泰彦医師に聞く(下)=感染拡大どう対処する?

梅毒は主に同性愛者の間で流行していたが、最近は異性間での感染も多くなっている。知らないうちに多くの人にうつしてしまうだけでなく、パートナーが妊娠していたら母子感染の可能性もあり、小さな命にも影響する。梅毒は適切な治療で確実に治る病気。まずは一人一人ができることから始めることで感染拡大を抑えたい。治療、予防方法について、プライベートケアクリニック東京(東京都新宿区)の名誉院長、尾上泰彦氏に聞いた。

◇検査キットも、陽性なら受診を

④   尾上泰彦医師

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―どのような検査をすれば、梅毒感染の有無が分かるのか。

尾上 梅毒の抗体を見つける「梅毒血清反応検査」で調べる。「脂質抗原検査(STS法)」と「TP抗原に対する検査(TP法)」の2種類がある。

⑤   梅毒血清反応検査の種類

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STS法は感染してから4週間程度で陽性反応が出るが、TP法はさらに2週間程度の時間を要する。一方、STS法は10~20%の確率で偽陽性(BFP)が出るともいわれる。感染の疑いがある場合、両方の検査を組み合わせて行う。
検査はどの医療機関でも行っており、保健所などは原則無料で検査してくれる。病院に行くことに抵抗があれば、自分で検査できるキットがある。少しでも心配な場合は検査を受けることをお勧めする。

―陽性反応が出た場合、どの医療機関にかかればよいのか。

尾上 検査結果が陽性と出たら、専門の医療機関を速やかに受診する。梅毒は症状に苦痛を伴わないことが多いため、放置したり見逃したりすることも少なくない。早期に発見し治療を開始すれば、治療がスムーズに終わり、体への負担も少ない。一度感染しても再感染する可能性もあるので、パートナーと一緒に受診するとよい。
通常は泌尿器科、婦人科、皮膚科にかかる。ただ梅毒は過去のような大流行はなく、最近まで減少傾向が続いたため、若い医師にとってはなじみが薄い。症状があっても視診では他の疾患と間違え、梅毒の疑いを持たずに血液検査まで進まないこともある。感染の不安を持った場合には性行為から3週間を過ぎた後、検査を依頼しよう。性感染症に詳しい医師であれば安心だ。

梅毒、尾上泰彦医師に聞く(下)=感染拡大どう対処する?

◇完治後も抗体はできず

―治療はどのように行われるか。

尾上 症状や病期によっても違うが、抗菌薬の内服治療が一般的。第2期までであれば、4週間の内服で病原菌はほぼ死滅する。その後も医師の指示に従い、完全に死滅するまで内服を続ける。治療薬は耐性の報告がないペニシリン系抗生物質が第1選択。アモキシシリンが使用されることが多い。

⑥   梅毒の治療 日本性感染症学会 治療ガイドライン2016

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欧米では飲み忘れの心配がない1回の注射で終わる治療が行われているが、日本はアレルギー反応で死亡するリスクを考慮し、現時点では未承認だ。死亡のリスクが100万人に1人という低リスクなことから、将来的には承認されるだろう。

⑦アメリカCDC 2015年 ガイドライン

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―一度治療すれば、再発しないか。

尾上 梅毒は強い抗体ができるわけではなく、完治しても、また接触すれば感染する可能性はある。けれども、抗菌薬を飲んで治療すれば確実に治る病気だ。今のところ、抗菌薬に対抗する耐性菌の報告もない。一度感染すると体内には抗体が残るため、数値は高いままになっていることが多い。「治りきってない」「また感染した」と心配になる人もいるが、適切な治療を行えば、数値は高くても病原菌自体は死滅して完治している。数字に惑わされる必要はない。

―感染を予防するにはどうすればいいか。

尾上 100%とはいえないが、性交の際にコンドームを使用することでの有効性は確認されている。梅毒の感染予防の基本は▽不特定多数の人とセックスをしない▽性行為では最後までコンドームを使う▽オーラルセックスは安全とはいえない▽性行為では、この人は大丈夫と思い込まない▽不安な場合は時機をみて検査を受ける▽感染が分かれば徹底治療をする―などが重要だ。(ソーシャライズ社提供)

⑧梅毒の感染予防の基本

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2017年06月04日

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