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「エッチしてないのに左の睾丸が痛い!(その3)

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前回、前々回と、
陰嚢の中の精索の静脈に腫瘤ができてしまう「精索静脈瘤」になった
サラリーマンの事例をご紹介しながら、この病気についてご説明してきました。
詳しくはバックナンバーをご覧ください。

この方も左の陰嚢の痛みを訴えていましたが、静脈の腫瘤は左側にできやすいのが特徴です。
今回は、なぜ腫瘤が左側に多いのかについてご説明しましょう。

左の睾丸から心臓に戻る静脈を左精巣静脈といいます。
この精巣静脈(道路にたとえると田舎道のように細い)は右に比べて長く、
左の腎静脈(道路に例えると田舎道よりやや広い県道)へと一度、合流します。
そして、この左の腎静脈(県道)は心臓に戻る下大静脈(一番太い血管で、道路にたとえると幹線道路)に合
流していきます。

そして、合流地点は2ヶ所あります。
合流地点(道路にたとえると交差点)では少なからず、血液が停滞することが考えられます。
さらに、精巣静脈に流れている静脈血は、立位、座位の姿勢であると、心臓の方が睾丸より上位にあるわけですから、重力に逆らって心臓に戻らなければなりません。

ですから、この現象は立位、座位の姿勢のまま長時間じっとしていると出やすいと考えられます。
逆に言えば、この現象は寝た体勢であれば出にくい訳です。

また、静脈弁の生まれつきの障害や還流障害(精巣静脈の上腸間膜動脈による圧迫)が生じて静脈血が停滞・逆流すると、精巣静脈がこぶ状に拡張してきます。

このようなさまざまの要因による、静脈のうっ血により陰嚢内の温度が上昇して、精巣の発育不全、精子の形成不全(精子の生産能力が落ちる)を引き起こし、子供ができにくくなる、いわゆる男性不妊症になる人もいます。

それでは右側に精索静脈瘤が起こりにくいのは、どうしてでしょう?

右の睾丸から心臓に戻る静脈を右精巣静脈といいます。
この精巣静脈(田舎道)は左に比べて短く、かつ、幸いなことにこの精巣静脈は心臓に戻る下大静脈(幹線道路)に直接、合流していきます。
車の流れに例えると、田舎道から幹線道路に斜めに合流するため、ほとんど交通渋滞はありません。

ただ、体の仕組みや血管の走行には個人差がありますから、右側にこの精索静脈瘤が発症しても不思議はありません。

治療は症状が軽ければそのまま経過観察、症状が強ければ手術になります。
ご心配であれば、専門医をたずねましょう。

少し専門的になりましたね!それでは、ごきげんよう!


2009年10月19日

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