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経口避妊薬の歴史と課題

『性の健康  2017年3月』(発行:公益財団法人  性の健康医学財団)の
「こらむ」   “経口避妊薬の歴史と課題”
日本大学医学部   早川 智教授執筆です。

ピルに関する興味ある内容でしたので報告いたします。

①「性の健康 春号」  2017年3月

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<女性が自ら妊娠をコントロールする自由>

多くの生物で、性行動は生殖と同義である。

従って、雌は発情期以外、交尾をすることはない。

ヒトを含む霊長類の一部において性行動と生殖は分離した。

しかし、妊娠という負担を強いられるのは常に雌動物(女性)である。

コンドームを用いた避妊法は18世紀から存在したが、パートナーに
装着してもらわねばならず、女性が自ら妊娠をコントロールする方法は20世紀まで存在しなかった。

<サンガー女史とピンカス博士の出会い>

1950年代、米国において、社会運動家マーガレット・サンガー女史は中絶を減らすため、ペッサリーの普及に努めていたが、思うに任せなかった。

ニューヨークの晩餐会で出会った、生殖生理学者グレゴリー・ピンカス博士に、
「女性自ら行なえる確実な避妊法」を相談した。

ピンカスは、妊娠中に、排卵が起こらないのは、胎盤から大量に分泌される
黄体ホルモンの作用ではないかと考え、友人の産婦人科医ジョン・ロック博士に相談した。

ロックは既に不妊症患者に黄体・卵胞ホルモン剤の投与経験があり、
排卵が抑制されることに気づいていた。

<最初のピル>

1955年に、東京で開催された第5回国際家族計画会議で、ピンカス博士は、
プエルトリコの女性に、黄体ホルモン剤300mgを用いた臨床治験で避妊効果が得られたことを発表した。

日本でも日本医科大学の石川正臣を班長とし、「経口避妊薬に関する研究班」が発足し、1957年に、「ノアルテン錠」、1960年に、「エナビット錠」が、月経異常の治療薬として承認された。

②1960年第1世代のピルが出現した。

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<第一世代ピルと血栓症>

1960年、FDAは、ノルエチノドレル9.85mgとメストラノール0.15mgの
ホルモン配合剤「エナビット10」を経口避妊薬として承認した。

しかし、これら高容量ピルは悪心・嘔吐などの副作用が強く、黄体ホルモン量を
減らした「ノアルテンD」「エナビット5」「アノブラール」「リンデオール」などが開発され普及していった。

しかし、早くも1961年に血栓症の報告があり、続けて乳癌や子宮頸癌(今から思えばHIV感染のリスクを高めるものだった)、肝障害などの報告が相次いだ。

これらの副作用はエストロゲンの量に依存すると推定され、いかにその量を減らすかが問題となった。


<低容量ピルと虚血性心疾患>

その後、1日当たりのエストロゲン量を50μg未満にするべきというFDAの勧告を受けて、新たな低用量ピルが開発されたが、ノルエチステロン系の黄体ホルモン剤では、内膜維持作用が不十分で不正出血の頻度が高いという欠点があった。

そこで、ノルエチステロン18位のメチル基をエチル基に代えたノルゲストレル製剤が開発された。

低用量ピル「マイクロギノン」の登場である。これによりピルの服用率は急速に伸びていった。

しかし、35歳以上で喫煙者の女性では虚血性心疾患のリスクが増加することが判明し普及は頭打ちになった。

<新世代ピルの普及>

その後、血中のLDLコレステロールを増加させるのは、エストロゲンではなく
ブロゲストーゲンが有するアンドロゲン作用であることが判明し、
黄体ホルモン剤の量を減らす努力がなされた。

そして1980年代にはプロゲステロンレセプターに特異的に結合する。

デソゲストレルやゲストデンが開発された。これらは、アンドロゲン作用が抑えられ、
LDLを上げずにHDLを上昇させる作用がある。

今日使用される「低用量ピル」は、エチニルエストラジオールで20-40μg、
黄体ホルモン剤はノルエチステロン、レボノルゲストレル、デソゲストレル、
ゲストデンなどで副作用は極めて限定的である。

③新世代ピルの普及

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<ローマ 教皇庁の見解と今後の課題>

2017年2月18日、ローマ教皇フランチェスコは「避妊は絶対悪ではない」という見解を述べ、ジカ熱の脅威にさらされる女性の権利を容認する立場を明らかにした。

保守的なカトリック教会が2000年来初めて、妊娠をコントロールする自由を認めたことになる。

しかし、ピルの普及によるコンドーム使用の減少とSTIの増加は表裏一体の関係にあり、手放しに喜ぶことはできない。医療者としてはピルの利害損失を十分に啓蒙する必要があろう。


④ピルの普及によるコンドーム使用の減少とSTIの増加は表裏一体

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2017年05月07日

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