泌尿器科専門医 ドクター尾上の医療ブログ:泌尿器科専門医 ドクター尾上に寄せられるさまざまな性感染症のトラブルについて専門家の立場からお答えします。

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「ガードネレラ腟炎」って何ですか?

先日、ある妊婦の方からご相談を受けました。
現在妊娠8ヶ月になるという彼女は妊婦検診の際の検査で『ガードネレラ腟炎』だと言われ、
現在治療中だということでした。
しかし、女性器のかゆみが止まらず、「この『ガードネレラ腟炎』というのは、
一体どんな症状が出るものなのか?」というお尋ねでした。


たしかに、これをお読みになっている皆さんのなかにも「ガードネレラ腟炎」
とう言葉は初耳だ、という方もいらっしゃるかもしれません。
これは細菌性腟症の一つの言い方なのですが、現在はこの呼称はあまり用いられていないからです。
「細菌性腟症」というのはは常在菌(健康な腟の中にいるバイキン)のバランスが
崩れて起こる病気で、これというはっきりとした原因微生物はありません。


細菌性腟症は、一昔前までは非特異性腟炎、ガードネレラ腟炎、ヘモフィルス腟炎、
嫌気性腟症などとして知られていましたが、現在では腟内の細菌叢から好気性菌ガードネレラ菌、あるいは嫌気性菌グループの細菌などが,異常に繁殖し、数の細菌感染として起こる状態とだ考えられています。
しかし病気の原因は未だ完全には解明されてはいません。
いい機会ですので、ここで、細菌性腟症についてちょっとお話しましょう。


細菌性腟症とは、腟内の乳酸桿菌の菌量の減少に伴い、いろいろな好気性菌や嫌気性菌が、
正常腟内で異常に繁殖している状態です。別の言い方をすれば、腟内の中でカンジダ、トリコモナス、淋菌などの特定の微生物がいないのに起こる炎症を、非特異性腟炎、または細菌性腟症といいます。


細菌性腟症の約半数は症状が無く、自覚症状も帯下(オリモノ)の訴えは軽いものです。
実際に診察してみると、腟分泌物の多くは灰色で、漿液性(ミズっぽい)です。
ときに悪臭を訴える場合もあります。
腟分泌物の量も多くなく、腟壁にも明らかな炎症所見はみられません。
一般的に細菌性腟症では痒くなりませんから、この相談者の訴えているかゆみの原因は
他にあると思われます。


健康な女性の腟にはさまざまな常在菌が存在しますが、その75~95%を占めるのが乳酸桿菌属です。腟には非常に強い自浄作用があり、それは、いわゆる善玉菌ある乳酸桿菌属の働きによるところが非常に大きいのです。
乳酸桿菌属はグリコーゲンを分解して乳酸を産生し、腟内をpH4.5以下の酸性に保つことで
雑菌の入を防いでいます。
ところが何らかの原因で腟内の細菌叢のバランスが崩れるとにより、細菌性腟症が起こるのです。


今回のご相談者は妊娠後期の方でした。この時期に細菌性腟症を起こしますと、
早産、新生児の肺炎・髄膜炎・菌血症などの感染症の原因となることがあります。
ですから、妊娠中の細菌性腟症は、特に積極的に治療されることをおすすめしています。


細菌性腟症の治療には、局所療法と内服療法とがあります。治療の基本は、
局所法であり、クロラムフェニコール腟錠100mgまたはメトロニダゾール腟錠250mgを
1日1回、腟の中に挿入するだけです。内服療法の場合は、メトロニダゾール1回500mgを
1日2回、7日間服用する方法です。
妊娠中には、ペニシリン薬アンピシリンまたはアモキシシリン500mg1日4回、
7間服用する方法もあります。


最後に性的パートナーについても触れておきますと、細菌性腟症は、性的パートナーの
多い女性がかかりやすいと言われています。
しかし、性感染症とは決めつられない側面があり、現在は、性感染症というよりセックス関連疾患と考えらていることも申し添えておきます。




2008年12月15日

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