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「 サンデー毎日」8月30日発売 急増する「梅毒」

 サンデー毎日」8月30日発売9.11特大号201641~43頁に

梅毒に関する私の記事が掲載されましたので、報告いたします。

記事の内容は下記に示します。

 

①「 サンデー毎日」8月30日発売 9.11特大号2016
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急増する梅毒   2016.8.31.

 

『早期発見のススメ』

梅毒が過去の病気ではなくなっている。6年ほど前から増加傾向に転じ、

 

今年の報告数は、すでに昨年1年間の数に迫る勢いだ。

 

感染初期は痛くも痒くもないため、放置してしまう人が少なくない。

 

長年、梅毒を診てきた尾上泰彦医師(72)に症状や予防法を聞いた。

  ②急増する梅毒「早期発見のススメ」
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梅毒は1492年、新大陸を発見したコロンブスの一行が、その地の風土病を持ち帰ったのが始まりといわれる。

 

世界的に爆発的流行となり、日本には16世紀に上陸した。国内で初めて梅毒が記録されたのは1512年。

 

梅毒は当時「瘡」と呼ばれ、特効薬のないまま感染が広がった。


1563年に来日したポルトガルの宣教師ルイス・フロイスは〈男も女もそれ(梅毒)を普通の事として、

 

少しも恥じない〉と書き、江戸時代には医師の橘南谿が『西遊記』(1795年)で、

 

京都の人の半分が梅毒にかかっていたと記したほど。

 

症状が進行すれば鼻が欠け、命を落とす危険もあったため、各地では梅毒平癒を願う「瘡守稲荷」が信仰を集めた。

 

徳川家康の次男、結城秀康や、肥後熊本藩初代藩主の加藤清正も梅毒で亡くなったといわれる――

 

こう書くと、梅毒はひどく昔の病気に感じられる。実際、1943年にはペニシリンによる投薬治療が成功し、

 

患者数は激減。国立感染症研究所によると、67年には1万1000例だったが、近年は87年の2928例を

 

ピークに減少傾向にあった。

 

ところが2010年を境に増加傾向に転じ、特に今年の増え方は顕著だ。感染研によると、8月14日までの

 

報告数は2591例。昨年の2698例(*今年3月30日時点の暫定値。以下*印同)に迫る勢いだ。

 

 宮本町中央診療所(川崎市)の元院長で、40年近く性感染症の診療を続けている尾上泰彦医師は、こう指摘する。


「梅毒の症状を診たことがない医師が増えたので、病変を見ても梅毒を疑わず、血液検査すらしないケースがある。

 

そのため梅毒患者は報告数より、もっと多いと思われます」

 


【爆買いとの関係】
梅毒は性感染症の一種で、皮膚や粘膜の傷から病原菌の梅毒トレポネーマが侵入して感染する。

 

セックスレスが問題化して久しい昨今の日本で、なぜ急増しているのか。

 

1999年に施行された感染症法によって、保健所への報告が厳しく義務づけられたことも一因と考えられる。

 

尾上医師は「疫学調査がないため、理由は断定できない」としながらも、こう推測する。

 

「日本人の性行動が急に活発化したわけでもないのに増えているのは、外的な要因が考えられます。

 

爆買いで来日する中国人が、風俗店に団体で出入りする影響は否定できません。

 

近年、中国では梅毒が爆発的に増えており、日本の300倍という指摘もあるからです」


2014年の中国・江西省南昌での調査によると、ストリートガール(街娼)361人中の梅毒感染率は

 

43.5%と、半数近くにのぼっている。


来日する中国人も急増しており、政府観光局の統計では08年に100万人を初めて突破し、

 

昨年は約499万人。今年も7月までに380万人に達している。

 

14年比で2倍超、10年比では実に3.5倍超と急伸しているのだ。

 

風俗に詳しいコラムニストの木村和久氏は、爆買いと梅毒との関係を、こう分析する。


「中国人お断りの風俗店がある一方、中国人を歓迎する高額な店もある。

 

建前上、性交が禁じられているためコンドームを置いておらず、感染しやすい環境にある。

 

また中国人にチップをはずまれ、過剰なオーラルセックスをしてしまう風俗嬢がいることも、

 

感染を広げている一因かもしれません」(木村氏)


男女比でみると、増加が著しいのは女性。感染研によると、10年には124例だったのが、

 

昨年には764例(*)と、5年で約6倍に。

 

 男性は497例(10年)から1934例(*)と数こそ多いものの、伸び率は4倍弱にとどまる。


「なぜ女性に増えているのか、理由は分からない。ただ、20代の女性に顕著なことを考えると、

 

中国人向けの風俗嬢を中心に発症が増えている可能性は否定できません。」(尾上医師、以下同)



【1期の症状】
注視すべきはクラミジアや淋菌感染症など、他の性感染症がおおむね減少傾向なのにもかかわらず、

 

梅毒だけが突出している点だ。

 

「たとえばクラミジアには痒み、淋菌感染症には排尿痛など自覚症状の出る場合がありますが、

 

初期の梅毒は痛くも痒くもないのが特徴。

 

気付かぬまま感染を広げてしまう事例が多いのです」(尾上医師)


それでも一定のシグナルがある。症状のある「顕症梅毒」は進行具合によって

 

早期(1~2期)と晩期(3~4期)に分けられる。

 

1期では感染部位にポツンと小豆大のしこり(初期硬結)が生じる。

 

次第にしこりが崩れて潰瘍を形成(硬性下疳)、さらに両足の付け根のリンパ節が腫れる。

 

感染からおよそ3週間後に発症するのが通常だ。

 

「ただ、いずれも痛み痒みを伴わず、発熱もないため、1期で医療機関を受診することは稀です。

 

しこりは性器に限らず、オーラルセックスの場合は唇や舌、咽頭や尿道に、

 

アナルセックスの場合は肛門にできる。 

 

③1期顕症梅毒:口唇の硬性下疳
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放置していても数週間で消えるため、自然に治ったと思い込んでしまう人も多い」(尾上医師)


中には自然治癒する場合もあるというが、自己診断は危険だ。

 

江戸時代、遊廓の吉原で梅毒が流行したのは、症状の消退を治癒と勘違いし、

 

客をとり続けたためといわれる。


「しこりや腫れがあっても、感染から3~4週間までは血液検査が陰性になることが多い。

 

その場合、病変部を採取し、暗視野顕微鏡で検査しますが、病原体の視認に習熟を要するため、

 

あまり用いられていない。

 

血液検査は3~4週間以降受けるようにしてください」(尾上医師)

【2期の症状】
1期の症状が消失しても自然治癒しない限り、3カ月~3年の後、梅毒トレポネーマが血液に乗って

 

全身にまわり、2期に進む。


「ここで初めて発熱があったり、全身のリンパ節が腫れたり、脱毛が始まる。

 

2期になって受診する人が大半です。

 

最も顕著なのが手のひらや足の裏に広がる赤い紅斑。梅毒性乾癬という発疹です。

 

それでも痛みや痒みを伴わないので、放置する人がいます」(尾上医師)

 

④2期顕症梅毒:手掌の梅毒性乾癬
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⑤2期顕症梅毒:足底の梅毒性乾癬
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また、2期の段階で紅斑を見つけ皮膚科に駆け込んでも、ただの湿疹と片付けられるケースもあるという。


「2期では血液検査で陽性になることが多いため、検査を受けてほしい。

 

1期、2期は感染力が強いため、人にうつしてしまいます」(尾上医師)

【3期、4期、HIVとの複合感染】
感染後、3年以上経過すると、皮下組織に鶏卵大のしこり(結節性梅毒疹、ゴム腫)が生じる。

 

骨が破壊されるのもこの時期だ。

 

感染から10年たつと心臓、血管、神経などに障害が出て、大動脈炎や大動脈瘤、進行麻痺など

 

重篤な症状に進むことがある。


「現在は特効薬ペニシリンのおかげで、早期に治療を行えば、3期、4期に進行することはほとんどいない。

 

また3期、4期は感染力が弱く、人にうつす心配もあまりありません」(尾上医師)


ただし、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)にも重複感染している場合は、1期~4期の段階を経ず、

 

様相が変わるという。


「梅毒に感染していると、その病変部分からHIVにも重複感染しやす傾向があります。

 

1期や2期でも重篤な症状が表れやすいのです。脳に菌が回り、神経を侵される場合もあります。

 

梅毒の検査をする場合はHIVの検査も同時に受けることを勧めます」(尾上医師)

【無症候性の梅毒も】
実は、しこりもできず、リンパも腫れないのに、血液検査だけが陽性になる無症候性の梅毒の方が多い。

 

感染研によると、14年の顕症梅毒(1期)は337例だったが、無症候は613例にのぼっている。

 

「1期から2期への移行期、また2期で発疹が消えた時に該当することが多い。

 

また、陳旧性梅毒といって随分昔に感染し、何の症状も出ず自然治癒したのに10年くらいたっても

 

梅毒の抗体だけが残り、血液検査によっては陽性が持続するケースもあります。

 

陳旧性は症状も感染力もないので、私は治療しません。

 

ところが現実には陽性であることを理由に、老人ホームなどの入所を断られる高齢者がいる。

 

不当な差別と問題視しています」(尾上医師)

【先天梅毒】
また、後天的に梅毒に罹患するのではなく、生まれながら罹患しているケースもある。

 

梅毒にかかった母親の胎盤を介して感染する「先天梅毒」だ。

 

昨年は13例(*)と決して多くはないが、微増傾向にある。

 

基本的に妊婦検診で発見されるものの撲滅はされていない。


「先天梅毒は出生時に黄疸や低体重であったり、学童期になってから難聴を発症したりする。

 

20代の女性に梅毒が増えている現状を踏まえれば看過できません」(尾上医師)

【予防法】
梅毒と診断されても、現在はペニシリンを一定期間内服することで、治癒する。

 

その前に感染を防ぐのが賢明だ。


「まず、不特定多数の人と性的接触をしないこと。

 

する場合は、はじめから終わりまでコンドームをつけること。性交時はもちろん、

 

オーラルやアナルセックスでも同様です。

 

コンドームは避妊だけでなく、梅毒を含めた性感染症予防の手段と考えてください」(尾上医師)


だが、不特定多数ではなく特定のパートナーとだけセックスしていても、

 

パートナーが風俗通いをしたり、違う相手と接触していれば、結果的に感染する恐れはある。

 

いくら自分が気をつけていても、相手が「潔白」で、感染していないかどうかは分からないものだ。

 

「現実には難しいでしょうが、2人そろって検査をするのが理想的です。

 

まずは1人でも、感染を疑う行為があったら、3~4週間置いて、医療機関を受診してください」(尾上医師)


加えて医師選びも重要だ。前に尾上医師が指摘した通り、梅毒症状を見たことがない若い

 

医師がいるからだ。

 

「迷ったら、性感染症に精通した専門医を選ぶのも一つの手段。

 

自己検査キットもありますが、うまく採取できないことがあるので、注意してください」(尾上医師)


怖いのは、気付かず放置すること。梅毒が死に至る病ではなくなった今、防ぐ術と治す術は確かにある。

 

本誌・菊地 香

 

⑥梅毒を防ぐ、治すポイント
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梅毒を防ぐ、治すポイント

コンドームを使わないセックス(オーラルやアナルも含む)や、不安な性的接触をしたら、

3~4週間後を目安に医療機関へ
性器や唇など接触のあった部位に痛みや痒みのないできものができたり、

痛くもないのに足の付け根のリンパ節が腫れたら医療機関へ

性感染症に精通した専門医を選ぶ
自己診断キットによる検査は採取に注意を

<急増する梅毒 尾上泰彦>




2016年09月01日

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