泌尿器科専門医 ドクター尾上の医療ブログ:泌尿器科専門医 ドクター尾上に寄せられるさまざまな性感染症のトラブルについて専門家の立場からお答えします。

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マジー!?16歳男子高校生の淋病!

16歳の男子高校生が父親と一緒に診察室に入ってきた。

父親がまず一声 『先生、こいつ、毛も生えそろってないくせに、尿道から膿なんか出しやがって! 生意気に俺もなったことがない病気になりやがって! 先生、よろしくお願いしますよ』

高校生はうなだれて沈黙をまもっている。 父親を退室させて診察を始める。
『どうした?僕!』
『先生!尿道から黄色い膿が出てきて、おしっこする時、すごく痛いんです』
『どこに遊びに行ったの?』
『一週間前に友達に誘われて、ヘルスに行きました。口でやってもらいましたが、セックスはしてません』
『僕!その彼女とキスはしましたか?』
『キスはしました』
『尿道から膿が出てきたのは、何時から?』
『三日前からです』
『お父さんに相談したのは?』
『きのうです』
『薬は何も飲んでませんか?』
『飲んでません』
『では、おちんちんを診ようか?』

彼の外陰部を診察すると、尿道口周辺は赤く腫れあがり、尿道口より黄色い膿が出ている。
さらに下着は膿で汚れている。 彼の尿道口より検体として膿(分泌物)を採取し検鏡法(淋菌の有無が直ぐ判る検査)と淋菌のDNA検出法(PCR)を行った。
その後、尿検査(淋菌とクラミジアの検出:1週間後に判る)も行った。
彼の症状と分泌物の検鏡検査から淋菌性尿道炎と容易に診断できた。

『僕ね、淋病になってるよ。彼女の喉に淋菌がいたんだね。彼女とキスをしたんだから、君の喉も淋病になっているかもしれないね。喉の淋病の検査もしようね』
そして彼の咽頭の淋菌培養検査をすませた。
『それでは、お父さんと一緒にお話しようか?僕!いいかい?』
『先生、お願いします』

父親と一緒に三者面談を行った。
『お父さんネ!息子さんは風俗店に行き、オーラルサービスを受けておちんちんが淋病になっています。口だけでいろんな病気になります。まさに“口は災いのもと”ですね!ですから息子さんの喉も淋病になっているかもしれません。でもこうやって、ここに来れたことは不幸中の幸いです。症状が出たから来れたのです。良かったですね。淋病の場合、95%の人に症状が出ますが、不幸にも症状の出ない方は治療ができないで、後になって前立腺炎になったり、さらには精巣上体炎になり高熱が出て入院する場合もあります。そして男性不妊症と言って子供ができなくなる場合もあります。それでは治療と今後のことについてお話をします。薬は正しく飲んでください。水分は十分に取りましょう。お風呂には膿が出ている間は入らないで、シャワー程度にして清潔にしましょう。二日後には膿が止まってくると思います。それでは今日の検査の結果が一週間後に出ますから必ず来てください。』

そして一週間後、約束どうり親子で来院してきた。
『僕、どうだい?良くなったかい?』
『先生、薬を飲んだ次の日から、膿が出なくなりました。もう、すっかり良くなりました』
『そう!良かったネ!検査の結果は、オチンチンは淋病だったよ。でも喉の方からは淋菌は見つからなかったよ。それから先生が心配していたクラミジアは幸いなことに見つからなかったよ。さて、今日までは淋病の治療をしてきましたが、これからの治療の方がむしろ大切です。淋病が治った後、30%位の人に淋疾後尿道炎といって尿道に不快感や違和感が出る尿道炎が起きます。この原因は、はっきりしません。淋病よりこの方がずっと、やっかいです。今日からこれに対する薬を飲んですっきりしましょう。それから今日はどの位良くなっているかどうか、尿検査をします』

さらに一週間後に来院してもらい、尿検査の結果は良くなり、異常が無かったことを告げた。
『これで治療は終了しましたが、念のために、一週間後に淋病がちゃんと治っているかどうかの治癒判定の尿検査をしましょう』
そして、彼はこの治癒判定検査に合格した。
『おめでとう。これで先生ともお別れだね。でもね、感染の機会があってから8週間以上経ったらエイズや梅毒の血液検査を受けた方がいいよ。将来、結婚するときや子供を作る時に問題が起きないようにしようね』
でも、その後、彼は来院してこなかった。

(1)一般的に性感染症になった場合、誰にも相談できず、内緒で治療を行うことが多い。これが経済的に自立してない子供たちの場合、親に言えないと、金銭的理由で十分な検査や治療ができず、不完全な治療で終わる傾向にあります。同様に無知、羞恥心からも未治療、不完全治療の恐れが出てきます。それにより再発し他人へ迷惑をかける場合もあります。
この事例の場合、自覚症状があり、さらに子供から親へ、親から子供へ何でも言える良い親子関係が良い結果をもたらしたとも考えられます。

(2)オーラルセックスの日常化により、淋菌が咽頭から検出される人が増え、性器の淋菌感染症の約30%が咽頭にも淋菌が感染しています。咽頭は淋菌に感染していても自覚症状が無いのが特徴です。うかつに『ノドはきれいだし、症状が無いから、大丈夫だよ』この一言はあまりにも危険です。

『口は新しい淋菌の感染源』です。


2007年12月18日

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