泌尿器科専門医 ドクター尾上の医療ブログ:泌尿器科専門医 ドクター尾上に寄せられるさまざまな性感染症のトラブルについて専門家の立場からお答えします。

Home > 【尖圭コンジローマ】 > 尖圭コンジローマ  ~問診と視診について~

尖圭コンジローマ  ~問診と視診について~

今回は、皮膚科専門医の日常診療情報誌 DERMATOLOGY 第9号(2009年10月)

「ひ~ふ~み~」特集: 「性感染症」 Topics1.

<<
掲載記事のPDF>>

に私の記事が掲載されましたので報告いたします。

総監修:東京逓信病院皮膚科部長 江藤隆史先生

 尖圭コンジローマ ~問診と視診について~

尾上泰彦宮本町中央診療所 院長

Summary

尖圭コンジローマはヒトパピローマウイルス(HPV)の感染により生じる疣贅で、大部分は性行為で感染する。原因となるのは主にHPV6型と11型である。診断には問診技術と視診技術が重要となる。形態的特徴から目視で診断可能であるが、診断困難な場合、生検による病理組織検査あるいはHPVの病原検査で鑑別診断を行う。

1.はじめに~尖圭コンジローマに思う

尖圭コンジローマ(condyloma acuminatumCA)はヒトパピローマウイルス(humanpapilloma virusHPV)の感染により生じる疣贅で、大部分は性行為で感染する。原因となるのは主にHPV6型と11型である。CAは性感染症(sexually transmittedinfectionsSTI)の中で比較的頻度が高く、皮膚科医の日常診療において避けて通れない疾患である。CAは疣贅以外の自覚症状がなく、潜伏期間が長いためSTIと気づかない患者がいる反面、インターネットなどで知識を得てCAと思い込んで受診する患者もいる。医師とて同じでCAと誤診し、過剰な治療をしてしまうケースにしばしば遭遇する。本稿では診断、特に問診技術、視診技術、鑑別診断について解説する。

2.問診のポイントとパートナーについて

診断には、問診技術とセックスパートナーに関する聴取が重要である。問診は、プライバシーを考慮した上で慎重に進める。診察の初めに問診を行う場合は、まずは簡単な項目(主訴、来院理由など)にとどめ、詳細は性器の視診時に行う。問診後に視診を行うより、視診の流れの中で問診を進める方が、より具体的な内容の聴取が可能となる。また、患者側も医師とのコミュニケーションがスムーズになる傾向がみられる。

発症時期は、疣贅以外の自覚症状が乏しく特定できないことが多い。感染機会・感染源についても、潜伏期間が約3週間~8ヵ月と長いため、パートナーが一人であれば特定可能だが、複数あるいは不特定多数の場合は困難である。職業などの患者背景は、感染源特定の参考となるので具体的に聴取しておく。また、性歴も感染源の特定に役立つ。パートナーとの性的行為の時期、その具体的内容、パートナーの人物背景について聴取しておくとよい。

既往歴に関しては、CAは初感染か再発か、CA以外のSTI罹患の有無などを確認する。CAの治療歴がある場合はその時期、治療法、効果など詳細に聴いておく。パートナー歴は、性的行為を持った人数、CAの有無、もしあれば治療内容、その他STIの既往歴を聴取する。パートナーも患者本人と同時に罹患していることが多く、約3040%にCAが認められる。現在、症状がみられなくても、数ヵ月後に発症するおそれがあるため、十分な追跡が必要である1)。診察は感染機会より期間を空けて2回以上行い、可能ならば6ヵ月後にも行う。

3.視診の心得

1.性器の視診前に口腔内の視診を  稀だが、CAの口腔内症例の報告もある2)。オーラルセックスが日常的に行われている現在、口腔内(粘膜・舌・咽頭など)の視診も忘れずに行う。特に性風俗従事者commercial sex workersCSW)や男性同性愛者においては必要である。

2.性器診察・視診の具体的方法
最初に、患者の訴えの部位と病状を確認する。男性性器・肛門部では、亀頭・冠状溝・包皮内板に発生することが多いので、包皮を十分に飜転し観察する。視診順序は外尿道口、亀頭、冠状溝、小帯、包皮内板、包皮輪、外板、陰茎根部、陰嚢会陰そして肛門の順で行う。特に外尿道口には病変が潜んでいることが多いため、両手指で広げて尿道内粘膜を視診する。陰嚢の視診は皺壁が多いので伸展する。真性包茎がある場合には、泌尿器科医と連携し、包皮を背面切開の上、亀頭を露出させて行うとよい。 女性性器では大陰唇、小陰唇、陰核包皮を手指で十分に伸展させて小病変を見逃さないようにする。腟前庭部、外尿道口の視診は丁寧に行う。さらに腟鏡を用いて腟壁・子宮頸部の視診を行う。必要があれば、産婦人科医との連携を行う。肛門周囲は皺が多いので皮膚を伸展させる。場合によっては、肛門科と連携し肛門鏡による直腸の観察が必要となる。視診では認め難い潜在病変を疑うときは、酢酸液を塗布して観察すると病変部が白色に変化してみられる。粘膜で平坦にみられる場合は3%液を塗布し、皮膚では5%液を塗布する3)。もし病変を認めれば、直接患者と対面し(見えにくい患部は鏡、画像などを利用して)、その部位を確認させ、どこに、どのような疣贅がどの程度できているか、説明し病識を持たせる。これらの視診は患者と共に行う姿勢で対応するのが望ましい。

4.STI検査
CAが認められた場合、他のSTIにも罹患している可能性があるため、S T I検査を実施する。H I V検査、梅毒血清反応、クラミジア検査、淋菌検査などは必須である。特にH I V感染者のC Aは多発し、難治例が多い。H I V非感染者に比べると、病変中のHPV量が多いという報告がある4)。

5.CAの診断困難な場合~病理組織検査

診断が不確実である場合には、病理組織検査を行う1)。CAの特徴は、軽度の過角化、舌状の表皮肥厚、乳頭腫症の他、表皮突起部位の顆粒層に濃縮した核と細胞質が空胞化した空胞細(koilocytosis)がみられることである1)。HPVの病原検査が、保険適用外である現状では病変部の生検によって診断を確定させることが重要となる。

 

6. HPV検出法

 

CAがウイルス感染症である以上、HPVの検出および同定による診断が望ましい。病原体の検出には

核酸検出法を用いる。実施方法としてH y b r i dCaptureHC)法とPCRpolymerase chain reaction

法の2種類がある。HC法では、低リスク型(6,11,42,43型)と高リスク型(16,18,31,33,35,39,45,51,52,56,58,59,68

型)のHPVを判別できる。遺伝子型の判定には、DNAチップ法などがある。PCR法は高感度なため、

過剰診断に対する注意が必要である1)。

 

7. 臨床像

 

男性のCAは、冠状溝周辺(図1)、包皮内板(図2)に多くみられるが、陰茎全体(図3)にもし

ばしば発症する。外尿道口(図4)にも発症するので視診時に注意する。陰茎根部周辺(図5

に黒褐色の隆起性疣贅が集簇して発症した場合には、生検を行い、ボーエン様丘疹症(Bowenoid

papulosis)との鑑別が必要である。肛囲(図6)に発症した際は、肛門鏡で直腸まで観察を行う。

女性の好発部位としては、腟及び腟前庭(図7)、大小陰唇、子宮口の他に、男性と同様に肛門及

び周辺部、尿道口(図8)などがある。

 

8. 鑑別診断

 

CAと鑑別を要する疾患には扁平コンジローマ(図9)、pearly penile papules(図10)、腟前庭乳頭腫症

vestibular papillomatosis(図11)、非性病性陰茎硬化性リンパ管炎(図12)、性器伝染性軟属腫(図13)、

ボーエン様丘疹症、epidermolytic acanthomaなどがある。

 9.最後に

現在、臨床医が行っているCAの診断は、問診、視診および病理組織検査のみで、あきらかに限界がある。適正な病原診断に基づくCA管理という理想像にはほど遠い状況である。現在、健康保険が適用となる病原診断検査はない。CAがウイルス感染症である以上、正確で感度がよい、HPVの型判別可能な診断法の早期保険適応が望まれる。

book0725.jpg  




2014年07月19日

Entries

Archives