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性感染症はナノメーターオーダー時代

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性感染症(STI)は、かつては『花柳病』あるいは『性病』と呼ばれていました。
ここでの「花柳」とは遊女、遊里を指し、昭和32年に売春防止法が施行されるまで、
いわゆる赤線地帯で行われていた売春を意味しています。

性感染症が「花柳病」と呼ばれること自体、かつては、いかに売春と性感染症が深く結び付いていたかをしのぶ事ができます。

昭和20年代までは抗生物質が自由に使用できないため、淋病、梅毒の全盛期でした。
性感染症は昔からある病気ですが、時代とともに変化も見られます。
それは、性感染症における“病原微生物の大きさ”です。

かつての「性病」時代は肉眼でも見える、mm大の毛虱(ケジラミ)、少し小さくなって、
ヒゼンダニ(疥癬)の寄生虫、腟トリコモナス原虫、さらに小さくなって
μm(ミクロンメーター)大の細菌類(梅毒トレポネーマ、淋菌、軟性下疳菌)が主役でした。

そして昭和50年代になると、細菌類に分類されているクラミジア・トラコマティス(CT)
(大きさは10マイナス6乗メーター)が台頭してきました。
現在はこのCTが性感染症の主役です。

この現象は診断技術の進歩により遺伝子(DNA)レベルの検査ができるようになり、
今まで判らなかった病気(クラミジア・トラコマティス)の診断が容易にできるようになったことによる変化です。

さらに今日では、STIはウイルス(大きさは10マイナス6乗メーター~9乗メーター)の時代へと向かっています。

HIV(AIDS)、HPV(尖圭コンジローマ)、HPV(性ヘルペス)HBV(B型肝炎)、HCV(C型肝炎)伝染性軟属腫ウイルス(伝染性軟属腫=ミズイボ)などはすべてウイルスの仲間です。
つまり、STI病原微生物の主役の座を長年務めていた細菌類は、その座をウイルスへと明け渡しつつあります。

すなわちSTI病原微生物はナノメーターオーダー時代に突入しているといえます
(1ナノメーターは10マイナス9乗メーターです)。

ウイルスは賢く症状を出さない物が多く、言い換えれば、現代は「無症候性ウイルス性STI時代」ともいえます。

しかしその中で、いまだにSTIの首位を独走している細菌はCTです。

とはいえ、医学の進歩により、近い将来、STIの主役はナノメーターオーダーの
病原微生物であるウイルスにとって変わるでしょう。

人間とウィルスとの戦いは、まだまだ続いていきそうです。


2010年01月05日

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