泌尿器科専門医 ドクター尾上の医療ブログ:泌尿器科専門医 ドクター尾上に寄せられるさまざまな性感染症のトラブルについて専門家の立場からお答えします。

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Elsberg syndrome (エルスバーグ症候群)

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23歳の女性が新婚旅行を中止して帰国し、直ちに受診してこられました。
症状は、38℃の発熱、外陰部の水疱、膀胱炎様症状、鼡径リンパ節の腫脹、疼痛に加え、
歩きづらいということでした。
そして、疼痛のため排尿が困難となりました。
外来通院では治療が難しいため、近くの専門病院に入院されました。

このように、性器ヘルペスの症状は、女性にとって大変深刻な状態になる場合があります。
初感染の場合、セックスをして2~10日間の潜伏期間をおいて、突如として症状が出てきます。
症状の出方が激しく、38℃以上の発熱を伴うこともあります。
大陰唇、小陰唇から腟前庭部、会陰部にかけて浅い潰瘍性または水疱性病変が多く見られます。
両側性の場合が多いですが、片側性のこともあります。
感染は外陰部だけでなく、子宮頸管や膀胱にまで及ぶ場合も多くあります。

疼痛が強く、排尿が困難になり、歩くことすらままならなくなります。
多くの症例で鼠径リンパ節の腫脹と圧痛などを認められ、
さらに、強い頭痛、項部硬直などの髄膜刺激症状を伴う場合があります。
専門的になりますが、これは馬尾症候群を呈する進行性炎症性多発神経根炎です。

尿意を感じない神経因性膀胱となり、カテーテルの挿入が必要となり、
入院となるケースもあります。
このような症例はElsberg syndrome(エルスバーグ症候群)と呼ばれ、
単純疱疹ウイルス(HSV)が上行性に、仙骨神経根に直接進展し、
限局性の髄膜脊髄炎が起きていると考えられます。

このような場合は、早急に抗ヘルペスウイルス薬の点滴が必要となります。
この女性は、1週間後、無事退院できたことの報告をしに来院してくれました。
その笑顔に、私は大いに安堵したのでした。


2011年08月01日

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