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96 オーラルセックスで発症した亀頭粘膜下血腫

今回は日本性感染症学会 第27回学術大会の学会誌
(第25巻第2号2014 p.111~114)に掲載されました図説(著書)をご報告いたします。
 
学会は平成26年12月6日(土)・7日(日)に神戸国際会議場で開催されました。
論文は下記に示します。
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オーラルセックス中に発症した亀頭粘膜下血腫
 
亀頭粘膜下血腫は、オーラルセックスが日常的に行われている今日、想定できる事象である。
しかし調べ得た限りでは、その報告が見当たらず、亀頭粘膜下血腫は極めて稀な症例であると思われる。
今回、筆者の経験したことのない亀頭の外傷症例に遭遇し、その経過を臨床写真で時系列に撮影できたので、性感染症ではないが報告した。


症例

患 者:40歳、男性、未婚

職 業:サラリーマン

主 訴:ペニス先端の大きな「血豆」

既往歴、家族歴:特記すべきことはない

患者背景:特定のセックス・パートナーはいない。しばしば性風俗店には行くという。

現病歴:ソープランドでの性風俗従事者(CSW:commercial sex workers)に長時間に渡るかなり激しい

オーラルサービスを受け、その後の腟性交の最中に陰茎に疼痛を感じ、腟から陰茎を抜去したところ、亀頭部に大きな血腫の発症していることに気づいた。

CSWからコンドーム装着時に亀頭部が赤いと指摘されたが、そのままコンドームを装着し腟性交を行った。その最中に疼痛を感じたため、陰茎を抜去したが、その際に亀頭部の血腫に気づいた。

患者は気が動転し、性風俗店(ソープランド)の勧めもあり、当院に緊急来院してきた。ソープランドに行く前に何かドリンク剤を服用したが、ドリンク剤の内容は不明であった。

 
初診時現症:亀頭背側面のほぼ中央から、やや左側寄りに大きな粘膜下血腫を認めた(図1)。

鮮血色の緊満したドーム状隆起を認め、その大きさは約縦幅28mm、横幅22mm、高さ12mmであった。

この粘膜下血腫は破綻しておらず、血腫内の血液内容は極めて薄い粘膜に保持されていた。

鼠径部リンパ節の腫脹や圧痛は認めなかった。

血圧:130/80mmHg  脈拍:72/分 不整脈なし

体温:36.8℃   身長:169cm   体重:68kg

陰嚢、肛門及び口腔に異常所見を認めなかった。

初診時検査成績

尿検査:淋菌(SDA法);陰性   クラミジア(SDA法);陰性

治療と経過

以上、問診、臨床症状、視診所見よりCSWによるオーラルセックスによる外傷により生じた

亀頭粘膜下血腫と診断した。

薬剤は抗生物質セフジニル(セフゾン®カプセル)300mg/day及びロキソプロフェン(ロキソニン®錠)

180mg/dayを7日間経口投与した。局所には白色ワセリンを外用した。

 初診日(来院時)

図1 初診時の局所写真:

亀頭部の背側面中央に大きな粘膜下血腫を認める。

 初診日(処置中写真)

図2 初診時:処置終了前の局所写真:

亀頭をやや左側に傾け、注射用針(21G)を用い血腫の粘膜の一部を穿刺し、血腫内の血液内容を

用手的に丁寧に、ゆっくりと排出させた(図2)。血腫は消失し、血液内容の排出に要した時間は

約15分であった。

初診日(処置終了時)

 

図3 初診日:処置終了時写真 血腫が除去された状態。

亀頭冠のやや左側に約5mm×1.5mmの粘膜下出血を認めた。

オーラルセックス時に歯で咬まれたと考えられた。

局所処置として食品包装用ラップフィルムに白色ワセリンを塗布し、創傷面に貼付した。

2日目(翌日)

 

図4 2日目の局所写真:

亀頭粘膜下にあった血液内容は消失し、粘膜下血腫を保持していた粘膜が一部、輪状に残っており、
その粘膜辺縁が隆起していた。また亀頭冠に歯咬傷の粘膜下出血が残っていた。

4日目

図5 4日目の局所写真:

亀頭粘膜の背側面は軽い発赤を認めており、また一部に白色を呈する粘膜辺縁を輪状に認めているが、創傷面の面積はあきらかに縮小傾向にあり、治癒過程に入っていた。

しかし、亀頭冠には歯咬傷の出血斑が残っていた。

28日目

 

図6 28日目の局所写真:

受傷後、28日目の視診所見であるが、亀頭粘膜の一部に、わずかな発赤を認めるが、
粘膜上皮はきれいに再生し、正常となり完全治癒とした。

 
解説

亀頭粘膜下血腫について

今回報告した亀頭粘膜下血腫が発症する要因を考えると、亀頭粘膜上皮の脆弱性、
亀頭粘膜の湿潤状態、乾燥状態、浅い潰瘍、ビランさらに患者本人の包茎に伴う不潔な包皮環境、
その他の感染症などが関与すると思われる。

ただ治癒後の患者の陰茎は包皮の飜転が容易に可能な仮性包茎であり、亀頭粘膜の湿潤状態も良好で、脆弱性のある亀頭粘膜とも考え難い状態であった。

筆者はオーラルセックスが発症の第一要因と考えており、特にCSWの歯咬的刺激がその原因と憶測している。

通常の外傷症例であれば、粘膜上皮が破綻して出血していても何も不思議でない状況であるが、
本症例では粘膜上皮が破綻していないことに驚きを感じる所見であった。

処置内容としては注射用針(21G)を用い血腫の粘膜の一部を穿刺し、血腫内の血液内容を
用手的に丁寧に、ゆっくりと排出させた。結果的にこの処置は奏功し、鮮血色の緊満したドーム状
隆起を呈していた血腫は消失した。その後の処置内容は、食品包装用ラップフィルムに白色ワセリン
を塗布し、それを創傷面に貼付する治療のみで、創傷面は縮小し、かつ順調に回復し、

亀頭粘膜が再生いく過程を経時的に追うことができた。
オーラルセックスが日常的に行われている今日、これからも、亀頭の外傷症例に遭遇することは

想定できる事象である。心しておきたい。

 
宮本町中央診療所:Miyamotocho Chuou Clinic

(〒210-0004)神奈川県川崎市川崎区宮本町4-1 宮本町中央診療所 尾上泰彦

 日性感染症会誌 オーラルセックスで発症した亀頭粘膜下血腫

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2014年12月26日

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