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19歳のHIV感染患者(その3)

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前回、当クリニックに来院してきた19歳の同性愛者の男性の、HIV抗体迅速検査が「陽性」だっというお話をしました。HIV確認検査の結果を待ちながら、まずは早期顕症梅毒感染の治療を始めたところ、彼の様子に変化が表れたことまでお話ししました。詳しくは前回(その2)をご覧ください。

この男性に駆梅療法をおこなったところ、その翌日より感冒様症状が発現し、発熱(38℃)、全身倦怠感さらにその3日後には全身的に紅斑が生じてきたのです。
これはいわゆる駆梅療法によるJarisch-Herxheimer(ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー)現象か、あるいは薬疹が考えられました。

ここでJarisch-Herxheimer現象について少し説明しておきましょう。
少し難しいですが、早期梅毒(第1期)の治療をするにあたっては大切なことです。
これは簡単に言うと梅毒の治療開始後、数時間で起こる生体反応です。
薬の投与開始直後からTP(梅毒の菌体)が急激に破壊されるため大量の抗原が放出され、アレルギー反応が生じる可能性があります。
突然の発熱(39度前後)、全身倦怠感、悪寒、頭痛、筋肉痛などが生じます。
皮膚症状の増悪もあり得ます。

治療の現場では、あらかじめ患者さんに、これが薬の副作用でないことを説明しておく必要があります。
説明を怠ったままでこの現象がでた場合、患者は激しく驚きます。
せっかく治療を始めたのに病気が益々悪化したと考え、医師との信頼関係を損ねる可能性もありますので注意が必要です。
多くの場合、この現象は一過性に生じ、何も恐くないことを充分に強調しておくと良いと思います。また予め鎮痛解熱剤の投与をしておくと患者も安心するでしょう。

話を元に戻しますと、この19歳の男性の場合も、駆梅療法開始後、間もなく感冒様症状が発現し発熱(38℃)、全身倦怠感さらにその3日後には全身的に紅斑が生じてきました。
この全てがJarisch-Herxheimer現象と考えられます。
私見ではHIV感染がベースにあるためこの現象が激しく、増幅されその期間も延長したものと考えます。結局、その3日後には紅斑は退色しました。

そして来院してから7日後、HIV検査の確認検査(Western Blotウエスタンブロット法)および抗原検査のPCR法(核酸増幅法)の結果がでてきました。結果は、私が恐れていた通り“陽性”でした。

「検査結果をお知らせいたします」と予め知らせてあったその日、彼は神妙な顔つきで来院してきました。
その表情は、明らかに最悪の事態を覚悟している様子でした。
私も覚悟を決め、静かに事実を伝えました。“HIV感染”の告知です。
彼は表面上、冷静を装っていましたが、その心中はいかばかりであったのか・・・。

そしてその日、ペニスと肛門も確認したところ、ペニスの硬性下疳は潰瘍が小さく浅くなり、肛門の尖圭コンジローマもボリュウム的には約50%減少していました。
梅毒と尖圭コンジローマの経過は良い方向に行っていますが、“HIV感染”については専門医療機関(某大学病院)に委ねなければならなりません。
彼の健康と幸せを心の中で祈りながら紹介状を作成しました。
19歳というあまりにも若い男性のHIV感染。

HIV感染は「ひとごと」ではありません。
ぜひ「身近にあること」という意識を多くの方に持っていただきたいと思います。


2010年03月03日

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